ブラック・メイデン:プロローグ

 トクントクン。
 うつ伏せに倒れたあたしは脈を打ちながら出血していた。視界は自分の血で真っ赤に染まっていく。
「血液はちゃんと採れたか?」
 今まであたしを守ってくれた二人の近衛兵の声が薄れゆく意識の中、聞こえる。
 久しぶりのお出かけで、ストロベリーパフェをおしのびで食べに出かけたのに、気がつけば、あたしの乗る車は高いビルが並ぶ中心地を抜け、どこにあるのか分からない鬱蒼と茂る森の小屋に着いていた。開発が進んでいるこの国に、まだこんなに自然溢れるところがあることに驚く。どんな理由でここに連れてこられたのか、皆目見当がつかない。ここにいる理由を近衛兵に尋ねようとした瞬間、いきなりあたしは脳天を刀で殴られたのだった。
 倒れているあたしの首に近衛兵の手が伸びる。
「ああ、バッチリだ。脈もちゃんとある。あとはこのガキの血液をデータベースに登録すれば、あのババアも一巻の終わりだ」
「あのババア、罪人システムに自分の愛娘が登録されたと知ったら、一体どうなるんだろうなあ」
「死ぬよりも苦しい思いを味わってもらおうぜ。罪人システムでこの国を狂わせた罰だ」
「あの悪女の娘って言っても、何も知らないバカなお姫さまだったな。こんなにも上手くいくとは思わなかったよ。ブラックの技術のおかげもあるけどさ」
「あはは。それはどうも」
 下品な笑い声と共に張りのある女性の声がする。
「じゃあ、取引はこれでいいかい? この子はありがたくあたしが頂戴するよ。金額はこれでいいかな?」
「ああ、いいさ。ブラック。ついでに俺たちのこれからの足跡を消すことも可能か?」
「ああ、できるよ。できるともさ。それぐらいはお茶の子さいさいだ。ただ、そうなると、少しお勉強してもらわないとねぇ」
「分かったよ。じゃあ、これぐらいで……」
 あたしの意識はここで途切れた。

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