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ブラック・メイデン

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ディストピアの国。 貴族のオトギリ伯爵は、自身が治めるアベルシティに向かう。 アベルシティは教育に力を入れている街で、この政策をすべての領地で行えば、領民は幸せになるという。 そ…
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#スチームパンク

ブラック・メイデン:プロローグ

 トクントクン。  うつ伏せに倒れたあたしは脈を打ちながら出血していた。視界は自分の血で真っ赤に染まっていく。 「血液はちゃんと採れたか?」  今まであたしを守ってくれた二人の近衛兵の声が薄れゆく意識の中、聞こえる。  久しぶりのお出かけで、ストロベリーパフェをおしのびで食べに出かけたのに、気がつけば、あたしの乗る車は高いビルが並ぶ中心地を抜け、どこにあるのか分からない鬱蒼と茂る森の小屋に着いていた。開発が進んでいるこの国に、まだこんなに自然溢れるところがあることに驚く。どん

ブラック・メイデン:第一話 バレントバカボンド

「旦那さま、何かありましたか?」  一等席の個室席で、オレの斜向かいに座るオレの秘書が気まずそうにこちらを見た。先代の領主である親父が死んで、早半年。その跡を継いだオレはまだ部下の信頼を得ていない。まだ二十四の若造ってこともあるだろう。オレの人生計画では大学院で研究するはずだったのに、思ったより早く、親父は死んだ。人生はそんなにうまくいかないものというのは真である。まあ、アレコレ考えるのはよそう。信頼をもらっていない若造は、あまり自分の機嫌を表に出さない方が良いに決まっている

ブラック・メイデン:第二話 エンチャントエクスプローラー

「ホタル先輩、この前の事件、見ましたよー! あんな事件を解決するなんて、凄すぎますー!」  太陽がさんさんと降り注ぐ喫茶店のテラス席で、大学の後輩、リシン・フィニルが大げさな身振り手振りで、オレを褒め散らかしていた。 「そのイケメンぶりにさぞかしモテモテじゃないんですかー?」  オレはこいつの下品さが嫌いだ。  このリシンという男は、オーダーメイドのスーツやハイブランドの腕時計を身につけ、金と酒で女性をはべらせているが、実際の中身はまったくない。  エチケットで香水をつけてい

ブラック・メイデン:第三話 ノーブルナビゲーター

 うう。お腹空いた。今日一日、安い骨董品を高値で買えと、ほぼ軟禁状態で恫喝されたが、なんとか逃げ切れることができた。  まったく、あんな安物をつかまされたら、あたしの商売はあがったりよ。  早く鶏肉の薬草焼きが食べたいわね。ここ、アライブ領の「売人の酒場」の一番人気料理だし、あたしの好物でもあるし。パリッと焼けた鶏皮とジューシーなもも肉がバターで炒めた米の上にのっている。美味しい料理だ。腹持ちもいいので、コスパも最高だ。 「もしかして、お前、ブラック・メイデンか。本当にちび助

ブラック・メイデン:第四話 デセントドール

「こうやって遊ぶのは久々だな」  高校まで一緒だったキトルスは大きく笑う。いつも思うことだが、もやしみたいな身体から、どうしてこんなに大きな声が出るのだろう。何年経ってもこいつはこいつだ。オレがひきこもっていた高校時代も領主になった現在も、変わらず一緒に騒いでくれる大切な友人だ。  先週と先々週は寝る暇もなく、忙しかったので、今週は休む! と、大きな声で宣言し、その場の勢いでクラリス領の別荘を借り、館を飛び出して、キトルスを訪ね、今に至る。  道中、ブラック・メイデンに会えた

ブラック・メイデン:第五話 オービットオブザーバー

「して、このカーシェアなるものについて、教えてほしいだがの」  上品なデザインで鈍いワインレッド色のベストを着た男性がきらびやかな応接室でオレをじいっと見る。長く真っ黒な髪に鋭い夏の日差しのような目は冷汗三斗の思いにさせる。足はまるで生まれたての子鹿のように心許ない。  男性にキレイと評するのはどうかと思うが、涼しげな水色の目はキレイとしか言いようがない男性だ。そして、今のオレに会う資格があるのかわからない、いわゆるやんごとなき存在。  そう。今、オレをにらみつけているのは、

ブラック・メイデン:第六話 ランクルインズ

「アラン修道院のシスター・カモミールのインタビューでした」  テレビから拍手が聞こえる。ベッドの上から見てたから、真面目に聞いていたわけじゃないけど、虐待児や孤児を保護する修道女の話だったようだ。  気分転換にでもと、カーテンを開けた。窓から見える太陽は痛いほど差している。外は茹だるような暑さだろう。すぐに閉めた。この青空は、今のオレにはまぶしすぎる。 「デートスポットにオススメの夜景が見えるレストランです!」  CM明けのアナウンサーの声にイラだつ。  ああ、うるさい。ベッ

ブラック・メイデン:エピローグ

 コンコン。  ノックの音がした。あたしは兄がとったホテルの扉を開ける。 「やあ、キセキ? ケガはどう?」  あの栗毛の天パがやってきた。鮮やかなエメラルドの目はとても爽やかだ。イージーオーダーのベストは、地味ではあるが、よく似合っている。 「痛むわ。強い痛み止めを使ったら、幻覚を見ちゃってさ。まさか、こんな風にラリるとは思ってもなかった。今は普通の痛み止めを飲んでいる」  肩を少しさすったあたしはホタルを通し、窓際のイスに座らせ、窓を開ける。外はとても明るく、まぶしいくらい