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妖怪諜報部

河童族の最後の末裔である僕は、山中より転び出るや、濡れそぼったアスファルトに無様に倒れ伏し、腹這いの姿勢で、しばらく動かずにいた。

雨上がりの曇天の下、湿った風が吹き抜けるたび、竹林がさわさわと揺れる。
顔のすぐ横の側溝を、水がちろちろと小気味良い音を立てて流れている。

それは、あの薄暗くて心地良い鍾乳洞——『河童の隠れ里』を出立し、三日にわたる行軍の末、ようやく人里に辿り着いた朝の事であった。

30分程そうしていただろうか。傍で黙って膝を抱えて座っていたジェミが口を開いた。

「いい風だねぇ」

彼女は赤児の頃に山中で拾われ、河童の眷属として育てられた人間族の娘——僕とは幼馴染だ。

「だねぇ」

そしてもう一人——

「あ、おじさんが帰ってきたよ」

腹這い姿勢のまま、頭をもたげる。
父さんが住宅街の方角から戻ってくるのが見えた。
僕と父さんは、人里への潜入にあたり、姿を人間のそれへと変化させている。

「間違いないぞ。やはりこの先のアパートがそうだ。」

どこか風情のある街並みに入り、入り組んだ小道を何度か曲がると、それは姿を現した。

古びたアパートの門脇に『第四逢魔ヶハイツ』と表札が出ている。
この建物の701・702・703号室で僕らは、それぞれ別々の秘密指令を受けるのだ。

二人と別れ、『703』の部屋に入ると、薄暗い空間が出迎えた。
テーブルの奥に、ヴェールで顔を覆った大柄な男が座している。
その手前には、上背のある青年が立っていた。

「ようこそ。私は職員のN-863号。鬼族です」とヴェールの男。

「私は砂鉢ライ。牛鬼の者です。よろしく」と青年。

「水洞レニ。河童族代表です」

諜報部建物内とはいえ、これから任に当たるので、お互い人間の姿のまま握手を交わす。

「さて。早速ですが、貴方達に隠密ミッションをお伝えいたします。」

N-863号はそう言いながら、顔の前で複雑な印を切り始めた。

「お二人には、宇宙へ行っていただきます。」


【続く】


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