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R.E.T.R.O.=/Q #9(エピローグ)
光に満ちた壮麗な宮殿。
見通せぬほどの天高くまで聳える石柱が、遥か彼方まで等間隔に立ち並び、その表面に万遍無く施された超自然の彫刻を無窮の大空間に曝している。
広大無辺なる大理石の回廊の床を今、小さな点が移動している。フードを目深に被り、しめやかに歩を進める者あり。絹のような光沢の純白のマントが、神聖なるスペクトル光を反射して玉虫色に煌めく。さらさらと小さな衣擦れの音だけが、静謐な空間へと吸い込まれてゆく。
来訪者はやがて、神秘の玉座へと連なる一,〇三十七段の階段の梺に到達する。
パール色の玉座に超然と鎮座するは、《評議員》アウグスティン鳳凰堂。艶やかな夜色の肌と純白の法衣のコントラスト。碧玉の瞳が気怠げに動き、遥か下で跪く来訪者を見降ろした。
「我々は有能なる人員を失った。十一賢者様は嘆いておられる。」
柔らかなブロンズの音声が大気を揺らす。
「……我々も手駒を一人、失いました。」
フードの男が応えた。
「三層世界はいまだ均衡していると言いたいのか? だが忘れてはならぬ。我らの目的は永久平和計画の完全遂行。即身仏結界を取り除く方法を見出さねばならぬ。本来このような空間すら存在すべきではない。」
「……存じております。本日はそのことでご報告に参りました。」
フードの男は不敵な声音で僅かに笑みを浮かべ、頂上に座すアウグスティン鳳凰堂を見上げた。
「《玄室》の座標がついに判明しました。近く掘り当てることができましょう」
◇◇◇
数日後、私達は「召喚部屋」に召集された。
集まったメンバーを見回したが、そこにジョンの姿はなかった。
直径50メートル程の分厚い鉄の円盤の上、おやっさんと巫女(ナビゲーター)3名が東西南北の位置に立つ。おやっさんは例の派手なサングラス、志穂は紅色ゴーグルのヘッドセット、その他2名も顔面上部を覆う装置を身につけている。あれも「自我マスク」の一種なのだそうだ。
「これより執行うは《召喚の儀》。《外界》より戦士を招き入れる。ドルゴが承諾した。」
《外界》。私は見たこともないが、草木が背丈よりも遥かに高くまで生い繁る密林で、人は獣と半々の姿になることで生き延びているのだという。嘘か本当かは定かではない。ドルゴという人物は《外界》におけるレトロの幹部の名だ。おやっさんは如何にしてか、外部との接続手段を持っており、連絡を取り合っているらしい。
円盤に立つ4人を繋ぐように、光のケーブルが出現した。即身仏結界(ネクサス)を介することで、このような術式が可能となる。
ヴゥゥゥゥゥン……
低い振動音と共に、円盤の上に渦の回転が発生した。4人を結ぶケーブルが放つ光が弥増す。
……ヴィィィィィン!
渦の回転は益々強まり、次第に高度5メートル程の円柱状竜巻へと成長していった。
シュゥゥゥゥン……
やがて竜巻がおさまり、内側から吹き出した蒸気が晴れると、その中央には身体の半分程を獣のような体毛で覆われた、小柄な少女が倒れていた。
おやっさんが朗々と吟じた。
「齢18を迎え戦士としての活動を許された。ドルゴの娘、エドゥアルトの妹。獣人(ザ・ビースト)、狂戦士(バーサーカー)。ホアン・ホワィ・ワーラーナーバークー!」
【第1話・完】
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