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ハート・オブ・サンダー

 降りしきる雨。
 雨粒を追い抜く速度で落下しながら、私は相手の頸にナイフを突き立てる。錐状の刃が貫通して反対側から頭を出すと、破壊された頸動脈から血液が刃を伝って噴出した。

 この状況でも尚、敵の男は血走った眼で私を睨みつけている。

――流石、殺し屋プロ

 私は自分を棚に上げてそんなことを思う。

 相手は致命傷に構うことなくナックルダスターの右拳を振りかぶる。私はその動きを読み、左肘で弾きながら左膝蹴りを脇腹にめり込ませる。更に、捩じ込んだ左掌を相手の右顔面に押し当て、毒手を発動。ぶすぶすと皮膚と眼球を灼く音がし、煙と血液が雨粒と混じり合う。
 左手を引き抜くと、もう一本のナイフを左手に持ち、奪った視界側の眼球に突き刺す。脳まで至る二度目の致命傷。

「ゴボッ」

 相手は不明瞭な苦悶の声を上げると、そのまま沈黙した。

 地上まではあと50メートルほど。相手を蹴り飛ばし、落下角度を調整する。
 地表は無尽蔵に増殖した工場プラント群によってどこまでも埋め尽くされ、ライトアップがそのシルエットを黒々と浮かび上がらせている。
 私は手近な鉄塔を更に蹴り、その反対側の巨大タンクを蹴り、次第に勢いを殺しながら地表へと回転着地する。

 私を襲った殺し屋の死体は自由落下そのままに地面へ衝突し、歪な姿となっている。突き刺さったナイフは血脂に塗れて使い物になるまい。

 外耳道格納式イヤホンにノイズが走り、仕事が一つ片付いたのを狙い澄ましたかのように通信が入る。あの男はいつもこうだ。したり顔が目に浮かぶ。

「ご苦労、相変わらず見事だ、アマリリス。すまないが、直ぐB部隊へ合流してほしい。3361区画。場所ルートはナビゲートする」

 ステラとバナナの別働隊だ。やはりこちらは陽動というわけか。

「了解」

 だが辿り着くのには少し骨が折れそうだ。物陰から進み出る新たな刺客の影を数えつつ、私はホルスターから取り出した追加の刺殺用ナイフを逆手に握り込む。

【続く】

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