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何で今日に限って、こういうことが起こるの?不運は今日も人の運命を弄ぶ。『デタラメだもの』

何で今日に限って、こういうことが起こるの? と、運のなさと申しますか、運命のイタズラと言いますか、いや、そもそもそれが宿命というものなのかもしれないが、何で今日に限って、こういうことが起こるの? という不運は訪れる。

わかりやすい事例でいくと、学生時代、普段は教科書なんて滅多に家に忘れてくることはないのに、たまたまその日、教科書を忘れてしまった。うわぁ、どうしよう。と焦ってはみるものの、まぁ大丈夫、先生にはバレないだろう。などと高を括っていると、そんな日に限って、教科書の音読に指名されたりする。
「はい、○○さん。教科書45ページの3行目から読んで」と教師から指名され、起立して音読させられる例のやつね。

まさに運の尽きというやつだ。教科書を家に忘れてきたことを自白するしかない。指名さえされなければ、墓場まで持っていけたものを、なぜに白日の下に晒されなければならなかったのか。普段、教科書なんて忘れないんだぜ。今日はたまたまなんだぜ。それなのになぜ――。というようなことは往々にして起こり得る。

先日、仕事で横浜へと出張に出かける機会があり、宿泊を伴うスケジュールだったため、次の日の着替えやら、現地でも軽く仕事ができるようにと、ノートパソコンなどをバックパックに詰め込み出発。

出張ともなると、移動中の時間は自由に仕事ができなかったり、そもそも目的があって出張するわけだから、現地でもスケジュールが拘束されていることが多い。そのため、出張に出かける際は、やらねばならない仕事がその日に入らぬよう、事前に入念な調整を行う。

器用貧乏な性格から、いろいろな種類の仕事に携わっているが故に、ある程度の大きな画面を見ながらじゃないと作業できないデザインの仕事や、ノートパソコンがあれば充分こなせる物書きの仕事。インターネットにつながる電波がないとにっちもさっちも行かない仕事など、さまざまあるわけだ。

その中でも、自宅に据え置いてある、ある程度の大きな画面を見ながらじゃないと作業できない類の仕事が、出張当日に入ってしまっては、もはや手も足もでまい。だって、身体は自宅から飛び出しちゃってるんだし、大きなモニタなど抱えて出張する愚か者などいるはずもない。
なので、そういった類の仕事を中心に、スケジュール調整したうえで出張する。

近頃じゃ、携帯電話で通話しながらコミュニケーションする機会も減り、メールでやり取りを済ませられることが多くなった。一日のうちで携帯電話が着信しない日だって珍しくない。

ところがだ、大阪から新幹線で移動する乗車中、あろうことか携帯電話が三度も鳴った。たかが携帯の着信でしょ? と思うかもしれないが、メールでのやり取りが主流になった時代に、携帯電話に着信があるということは、よほど急ぎの用件か、トラブルの報告なわけだ。"携帯が鳴る"だなんてキャッチーな事態じゃない。それはまさに、"不吉を知らせる微振動"なわけだ。この時点で、ずいぶんと気が滅入ってしまう。

現地に到着し、電話を折り返してみるも、それぞれ不通。タイミングが合わず用件を聞くことができなかった。現地での最初の任務が開始されるまでの間、まだ1時間半近くあるため、とりあえず駅近くのラーメン屋で腹ごしらえしよう。そう思い入店。注文したラーメンが配膳された刹那、折り返しの着信があった。なによなによ、この間の悪さ。

せっかく注文したラーメンが冷めてしまってはマズい。とは言え、現地で任された最初の任務は、広告の勉強会の講師を務めるというもの。ひと度、任務に就いてしまえば、電話など受けられるわけもない。できれば早々に用件を聞き出してスッキリしてしまいたい。

ラーメンを流動食に見立て、咀嚼せぬまま飲み込むように完食。要した時間2分程度。味の記憶も残らぬまま、店を後にし、即座に電話を折り返す。呼び出し音が途切れ、用件の主が電話の向こう側に現れた。

「すみません。保留になっていた某球団のデザインの件ですが、提出いただいているデザインを今日中に修正し、明日納品してもらいたいのですが」

さてさて、こんな感じで、ある程度の大きな画面を見ながらじゃないと作業できないデザインの仕事が突発的に動き出したりするわけだ。モニタなんてないよ。デザイン業務ができるほど優秀なパソコンは手元にないよ。あるといえば、流動食さながらに飲み込んだラーメンのせいで、腹痛があるくらいだよ。

もう一度、担当者のフレーズに注目していただきたい。そうなのです。保留になっていたのですよ。三週間近くも、何の音沙汰もなく、もはや消滅してしまったのではと危惧されるほどに鳴りを潜めていたのですよ。それが何故に今日? よりによって出張に出ている今日?

そして解せぬのが、保留状態が続いていたにも関わらず、不運にも今日、コトが動きだし、あろうことか明日に納めねばならぬという急展開。そんなアホな。

長かった保留状態のことを思えば、もしかすると、今日・明日のスケジュールは、何となくの判断で決められたものかもしれない。そう思い、担当者に「ちなみに今日ではなく、明日の修正、明後日の納品などは難しそうでしょうか?」と尋ねると、「はい、難しいです。球団側には既にスケジュールを伝えちゃってるので」と無慈悲。ぐすん。

仕方がない。何とかせねば。

勉強会が始まるまでの間、現地をプラプラしようかと思っていた計画も見事に破綻。近くにショッピングモールがあったので駆け込み、偶然にも公共スペースにいくつかのソファが並んであったので、そこでパックパックからノートパソコンを取り出す。外付けハードディスクを取り出す。電波がないので自前のスマートフォンから電波を発信させ、微弱な電波で遅々として進まぬ通信に耐えながら、後輩にデータを送り、対応してもらうことに。

ソファにパソコンを置いて作業するということは、膝はフロアなわけだよ。昼下がりの主婦や子供たちに奇妙な目で見られながら、まるで懺悔するような姿勢で、地べたに膝をつけ作業をするのだよ。はははん。働くというのはこういうことなんだよ。

現地をプラプラどころか、目的地に到着せねばならん時間も迫る。ソファでの作業を済ませ、全力疾走で向かう。大量の汗が吹き出し、勉強会の最中も止まらぬ汗。メガネのレンズを伝うほどの汗。参加者たちに何を教えてあげられたのか、記憶すらない。

何とか事なきを得て、勉強会も終了。次の任務は東京へと移動し商談。これまた少し早めに現地に到着し、コーヒーでも飲んで時間を潰そうと、喫茶店に入店。すると、またしても携帯電話が着信を告げる。先ほどとは違うお客さんからの連絡だ。

「ウチのWebサイトのトップページなんだけど、ワケのわからないエラーが出ててねぇ。すぐに直してくれない?」

数年前に制作に携わったお客さんのWebサイト。納品後は何のトラブルもなく利用いただいていた。なので、日頃から話題にすら出ることもない。「便りのないのはよい便り」とはよく言ったものだ。

なぜ、今、便りを寄越す? この状況でどうしろと言うのだ?
もう一度、お客さんのフレーズに注目していただきたい。そうなのです。すぐに直して欲しいそうだ。出張先では到底対応できない。自宅でも対応できない用件。事務所の特定のパソコンでないと対応できない要件。もう一度言う。この状況でどうしろと言うのだ?

何で今日に限って、こういうことが起こるの? という不運はこうして訪れる。横浜の景色が見渡せるタワー型のビジネスホテルを予約していただいていたのだが、カーテンを開け、景色を臨むことすら忘れ、わずか数時間の睡眠を経て、翌日の早朝にホテル、いや、関東を飛び出し、帰阪したことは言うまでもない。

デタラメだもの。


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