令和版粋なゲーマー養成講座:ダークサイド4:ゲーム製作の光と闇
解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。今回はライトサイド4で紹介した自作TRPGとその周辺環境について語っておきたい。
文:朱鷺田祐介 イラスト:田中としひさ
ようこそ、私の研究室へ。
「どうやったら、TRPGが作れるんですか?」
職業柄、よく引き受ける質問であるが、これにはなかなか答えづらい。たぶん、私よりちゃんと応えられるゲームデザイナーが最低でも10人はいるはずだ。残念ながら、結構、勢いで作っていてかなり「ざつ」な方なのだ。
そして、もうひとつ、言ってはならない答えがある。
「作り方を質問するようなヤツには作れない。
作るヤツは、もう作っている」
それはたぶん「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」でプロシュート兄貴が言った名言そのままだ。
そんなことが可能なのか?
可能だ。もちろん、今、ゲームショップの店頭に並んでいるようなかっこよくレイアウトされたヤツじゃなくていい。こんなゲームが遊びてえ!と、チラシの裏やノートに書き散らした妄想の言葉、メモ、SNSに書き込んだうわごとをまとめていけば、あと一歩だ。
それはいつか、商業レベルの作品になるかもしれない。
日本では、クトゥルフ神話TRPG(以下CoC)の拡大によって、同人シナリオやプレイ配信が増大、TRPGライツを規定され、同人作家がクリエーターへシームレスに移行していく。その大半は、CoCのシナリオ集やリプレイ集へと流れ、コミケのクトゥルフ島がその他のTRPG島より広いという、往時のD&D、SWでもなかった事態にいたったが、わずかながら、広大なTRPGの可能性に出会い、オリジナルTRPGの制作に進む者も出てきた。それらはコミケやゲームマーケットなどで世に出るが、中には、海外翻訳される同人作品まで登場している。世界への窓はもう開いているのだ。
それはさておき、『トップガン マーヴェリック』は見ました?
考えるな、行動しろ!
令和4年8月
なお、本稿はフィクションです。ええ、フィクションですよ。フィクション! わかりましたね?
俺たちの夜はこれからだ
さて、とある邪神コンのTRPG作ろう例会は終わった。
家族を送り返した難解好夫(なんかい・すきお)と、色々解説を押し付けられて疲れ果てた色々知照(いろいろ・しってる)は、二人でゼリアでイタリア飲み(*1)。
難解「今日はすまんかったな。色々押し付けて」
色々「まあ、難解さんの無茶振りは慣れてますから」
難解「ま、わしも還暦(*2)だし、面倒なのは若いものに押し付けたい」
色々「俺だって、52ですよ?」
難解「お前、まだ髪が真っ黒やん! 俺見ろ、俺」
と頭の白髪を指す難解さん。もう半ば白くなっている。
そこでぽんと難解さんの肩を叩く色々さん。
色々「これ、染めているんです。本来はもう真っ白なんですが、職業上の都合もあって、黒く染めるのが社会人の努めでして」(*3)
難解「社会人、面倒くさいな」
そこに主催者の少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳)が挨拶にやってくる(*4)
少々「本日は、娘のわがままにつきあっていただき、ありがとうございました。特に、色々さんは荷物重かったでしょう?(*5)」
色々「まあ、面白かったからいいよ。結局、難解さんが『BladeRunner RPG』(*6)をGMして終わっちゃいましたね」
少々:まあ、最新版のゲームが遊べてよかったですよ。『Blade Runner RPG』の正式発売は秋ですか?
難解:Kickstarterのバッカー用PDF(*7)が届いたばかりだからな。俺も雑な解読でとりあえず、回してみただけだ(*8)。
色々:ダイスのあたりは、『ザ・ループTRPG』(*9)とはずいぶん違いますねえ。D6、D8、D10、D12とか(*10)。
難解:あれは、Fria ligan(*11)版の『Twilight 2000』第二版(*12)と同じだ。デザイン・チームはあっちの方が好きなようだな。わしぁ『Mutant Year Zero』(*13)とか遊んでないからよく知らんが。
色々:あれだと専用ダイスが欲しくなりますね(*14)。
難解:まあ、そこが商売だな。今はデジタル版も多いが、やっぱりTRPGも玩具の一種(*15)だから、手に持って遊ぶ道具があった方がいい。海外でスターターセットが元気なのも、そこにある。(*16)
少々:日本語版出ないですかね?(*17)
難解:日本でそこまでブレードランナーの人気があるかどうか。(*18)。何しろ、原作映画が40年前だ。企画をどう通すかだなあ。
あと、問題は値段な。フルカラーのハードカバー234P(*19)だぞ。まあ、6,000円は覚悟してくれ。
少々:高いですねえ。今月の予算はもうないです。(*20)
色々:少々の家は、お小遣い制だからな。(*21)
1万円はそうでないですよ。
難解:色々、お前が昨日、回したガチャよりは安いぞ?(*22)
色々:あれはお目当てが出たから、実質無料。(*23)
TRPGを作るのは難しい?
色々:で、まあ、今回思ったのですが、TRPGを作るのは難しいんですかね?
難解:そりゃ難しいさ。でも、昔よりはずいぶん簡単よ。
ネタさえ思いつけば、小型のTRPGを作るのは技術的には可能だ。
例えば、朱鷺田は、「信長の黒い城」を5日で作った。(*24)
色々:確かnoteで、「月曜日に思いついて、金曜日にキンコーズ」って言ってましたね。
難解:まあ、あれは「MÖRK BORG」から「Cy_Borg」(*25)というお手本があったが、同じようなお手本は日本にも、FEARのSRS(*26)、冒険企画局のサイコロ・フィクション(*27)があるから、同人TRPGをそのフォーマットで作っている連中は多いよ。
色々:そうですね、知り合いもそこからデビューしましたよ。(*28)
でも、梶理ちゃんは、SRSもサイフィクも遊んでいないよね。
難解:クトゥルフ神話TRPGのベースになったベーシック・ロールプレイングをお手本にすれば(*29)、梶理ちゃんもそれなりにいじれるだろう。
少々:DTPとかイラストとかは?
難解:まあ、最近は同人誌ですら、InDesign(*30)やPhotoshop(*31)を駆使して、電子入稿(*32)だからな。同人誌の敷居が高くなった。
でもな、同人レベルの文字原稿なら、WORDで十分だ。(*33)
昔はあのくらい「ざつ」だった。
色々:「信長の黒い城」も、イラストが間に合わなくて、手書きでしたね。
難解:イラストもなんとかなるで?
色々:まさか、いらすとや(*34)?
難解:まあ、フリー素材(*35)もネットに転がっているが、(ノートPCを操作して)例えば、これが5分で出来るとしたら?
色々:なんすか、これ!
難解:AIに描かせたイラストだ。これは、WomboのDreamサービス(*36)だが、最近なら、もっと進化したAIでDeep Learningする自動絵描きサービスのMidjourney(*37)もある。サブスクすれば、商業利用も可能だ。英語で、Discordの対話モードで動かす必要があるが、そのうち、日本語にも対応するだろうな。割りとしゃれにならん。
例えば、Cthulhuと入れると……
色々:これ、今、描いた?
難解:ああ、そうだ。(*38)
少々:何でも描ける? 艦これ(*39)は?
難解:例えば、「霧島、軍艦」と入れると……
色々:いいなあ、
難解:ああ、こういうのを(カチャカチャ)
少々:え?
難解:お、メガネだ。メガネ。どこから、その要素を拾ってきた?
色々:Deep Learning(*39)じゃないですか?
難解:Kirishimaでメガネっ娘にするとは、AIも分かっているじゃないか?
わははは、楽しくなってきた。
しばし、Midjourneyをいじるいい大人たち。
難解:体験用のフリー使用枠が一瞬で溶けたな。(*40)
少々:これなら、イラストが描けなくても本が作れる!
難解:向き不向きはあるが、まあ、それなりのイラストはこれで代用できるなあ。
色々:いや、ちょっと待って!
もしかして、イラストレーターさんの仕事がなくなる?(*41)
難解:まあ、そうはならん。作家性というのがあるからな。(*42)
少々:作家性・・・。
難解:その人にしかない個性が出ていれば、すぐには仕事はなくならない。まあ、そもそも、これをいじって最も楽しんでいるのは、絵描きとハイテクライターだ。(*43)
下書きやアングルのテストをMidjourneyでこなして、自分でレタッチして、ロゴを載せれば、まあ、オリジナルさね。
色々:なるほど。
難解:とはいえ、「とりあえず、それっぽいイラストがあればいい」ような時は、AIに適当なキーワードを放り込んで何度か試行した結果でいいってなるかもしれないなあ。(*44)
クォリティの高いイラスト屋の誕生だ。
DeepL翻訳の時も感じた(*45)が、技術発展が時代を変えるんだな。
少々:どういうことですか?
難解:ビジネス翻訳の最前線だと、DeepLやGoogle 翻訳などの機械翻訳にファイルごと放り込んで下訳させて、翻訳者がそれを整えるポストエディット(*46)という手順が当然のように使われている。いわゆるMTPE(機械翻訳ポストエディット)だ。これが加速しすぎて、ビジネス翻訳者の作業賃金のダンピングまで行われたよ。(*47)
色々:業界の闇が……(*48)
デザイナー戦国時代?
難解:だから、技術面では、TRPGは作りやすくなっている。まあ、それは道具の話で、結局は作り手の熱意とか、野心のレベルだよなあ。
少々:じゃあ、梶理はTRPGデザイナーにはなれないと?
難解:わからん。(*49)
少々:どういうことですか?
難解:まあ、今日明日に、狂ったように、TRPGを作るのはないかな。実際、クトゥルフ神話TRPGを遊ぶだけで十分、楽しんでいるし、その環境に不満はないのだから、モチベーションがない(*50)。シナリオとかを他人に見せてほめられたい訳でもない。そういう意味で、今の梶理ちゃんは創作に飢えている訳ではないので、TRPGのデザインをする必要もない。
色々:難解さんはなんでTRPG作るんですか?
難解:オレが遊びたいTRPGがないからだ!
誰も、ポーランド=ソヴィエト戦争TRPG(*51)とか作ってくれないしな! ワルシャワ蜂起ネタは「青灰のスカウト」(*52)がやってくれたが、
難解:……オレがやりたいのは、ポーランド騎兵が赤軍と激突するようなヤツなんだ。ヴィスワ川の奇跡(*53)だ!
色々:ニッチすぎる。そこについてくるのは、日本で数名(*54)しかいないような気がする。
難解:どれほどニッチであろうが、オレが楽しい!(*55)
色々:それだけじゃないですよね? 他にも作りましたよね?
難解:お、見るか、見るか?
まず、原作が好きで作ったのが「アンチャーテッド TRPG」だ。(*56)
色々:難解さんでも原作物を作るんですねえ。
難解:まあ、同人誌止まりだがな。さすがに版権は取れぬ。(*57)
色々:版権ものは・・・
難解:映画っぽい演出が出来るように、相棒NPCを設定して、指ぱっちんで呼び出せるんだ。「特攻野郎Aチーム」(*58)とか「MI」シリーズ(*59)とか。当然、「インディ・ジョーンズ」(*60)の方もな。
色々:なかなか斬新ですね。
難解:最新鋭のメカとかも使えるようにして……
色々:いいですね。オスプレイ(*61)とか飛ばしたい。
難解:あとは、トレジャー・ハンターものだからと言って、ピラミッド、聖杯、マヤで終わらないように、全世界の古代文明を網羅する!
色々:大変ですよ、それ。
難解:まあ、ある程度、古代史の解説も必要だな。
少々:もしかして、それは「ブルーローズ」では?(*62)
難解:朱鷺田、ゆるさん!
主に、銃器のデータ解釈が雑だ!
色々:他にもあったでしょ?
難解:新選組が吸血鬼退治をする「浅葱色の魔狩人」というのを作った。
最初は、京都にしていたが、舞台が狭すぎるので、当時、貿易で反映していた中国の上海にした。
少々:「上海退魔行 新選組異聞」(*63)。
難解:朱鷺田、許さん!
色々:現代伝奇もの(*64)とかあったじゃないですか?
難解:現代の高校生が悪魔を召喚したり、魔術や古武道で戦ったり、銃器で撃ったり、悪魔と悪魔を合体したり……
少々:真女神転生TRPG(*65)
難解:朱鷺田、許さん!
色々:流行りの犯罪捜査物とか。
難解:東京をグリッドで区切って、事件がランダム生成できるようになっていて、ちゃんと捜査もできる(*66)。ついでだからオカルトも入れよう。
少々:「霊障都市捜査ファイル」(*67)
難解:朱鷺田、許さん!
色々:もう諦めなさい。
難解:朱鷺田、許さん! 次こそは、オレが先に!
少々:確かに、梶理には、難解さんほどの熱意はないですな。
色々:まあ、やりたいことがあるなら、やればいいし、楽しいゲームを遊べるなら、それで幸せかもしれませんよ。(*68)
それより、さっきのMidjourneyの絵、もったいないな。あれでシナリオ1本書くか。
少々:そのぐらいが幸せかもしれませんね。
とっぴんぱらりのぷぅ。
解説っぽい何か
ここから先は
アナログゲームマガジン
あなたの世界を広げる『アナログゲームマガジン』は月額500円(初月無料)のサブスクリプション型ウェブマガジンです。 ボードゲーム、マーダー…
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?