富沢雅彦「初期東映怪人番組論」

 「この世には3794の謎があると言われている。「仮面ライダー」がなぜ人気があるのか、ということもぼくにとっては未だに解けない謎の一つだ」(富沢雅彦/『宇宙船』Vol.6・1981年)。
 『科学冒険隊タンサー5』(1979年)のナレーションに曰く、「地球には3794の謎があると言われている」。富沢雅彦はそれに絡めて仮面ライダーの謎を語る。
 「我々の年代の中では円谷怪獣番組→大人の鑑賞に耐えるSFドラマ、東映怪人番組→幼児向け単純アクションもの、といった固定観念が厳として存在し、変身ものと言えば「ライダー」も「ライオン丸」も「トリプルファイター」も十把一からげに一段低いカテゴリーへ押しやられていたわけである」(『宇宙船』Vol.6)。
 怪獣ファンダム第一世代の中で、円谷怪獣番組よりも一段低いカテゴリーへ押しやられていた東映怪人番組。にもかかわらず、「仮面ライダー」は何故かくも人気があるのか? 「幼児向け単純アクションもの」の特徴として、富沢は主人公の「個性」の欠如を挙げる。
 「今までのライダーで何が気に入らないかというと、主人公に全く個性が認められず、単に「正義」の看板だけに頼っているという感じがすることなのである。「正義」の味方というのは自分のやっていることが正しいのだという思い込みで生きているわけで、必然的に行動パターン硬直の昭和30年代的明朗熱血青年の枠におさまってしまって」(『宇宙船』Vol.7・1981年)。
 「正義」の看板だけに頼る「30年代的感性」。「仮面ライダー」の主人公には「個性」がない。言い換えれば「行動パターン」が硬直している。ウルトラ形式の怪獣番組では、「自分のやっていることが正しいのだという思い込み」にしばしば疑問が投げかけられた。
 「真面目ブッた中途半端な“ドラマ”をやるよりは最初から明るくカッコいいヒーローものにすれば良かったのだ、「バトルフィーバー」みたいに」(『宇宙船』Vol.8・1981年)。
 富沢の年代の価値観は、「大人の鑑賞に耐えるSFドラマ」を「固定観念」の破壊に求める。1979年の『バトルフィーバーJ』は本放送当時、「ウルトラマン、セブンにも匹敵する近来稀な快作」と評価された。高級ハード志向の同人誌『衝撃波Q』でも特集されるなど、「バトルフィーバー」の「行動パターン」は広い範囲に「影響」を及ぼす。
 「それらを総合するに「バトルフィーバー」とは“モラトリアム時代のヒーロー"と称するのが適切ではないか。アイデンティティ確立せんもんね、旧世代の人はまだまだ頑張ってるし、当分遊び続けてたっていいんじゃないかという」(『宇宙船』Vol.8)。
 モラトリアム時代のヒーローは、「アイデンティティ」のなさこそが「個性」と見做された。

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