感覚の世界──小林恒夫の『点と線』(1958年)
「なによりも僕は戦争映画が好きだから、戦争をベースにしながらSF的な世界観を描く、この『地球防衛軍』のスタイルにこそ表現者として憧れを感じるね」(川北紘一/『別冊映画秘宝 東宝特撮総進撃』)。
川北紘一が憧れた『地球防衛軍』(1957年)のスタイルとは、「現実の兵器と架空の兵器とが渾然一体となってスクリーンに登場し、空想性の強い光線やメカに強烈なリアリティが宿る」というものだった。「架空の兵器」しか出てこない後半部分に対しては「ちょっと退屈かなぁ」。「SF的な世界観」が強烈なリアリティを宿すのは、「現実」と「感覚」が渾然一体となった時とされる。
「映画というのはある部分、やっぱり技術なんで、感覚だけでは新しいものを作っていけない時代に入ったんだと思います」(川北紘一/『日本特撮・幻想映画全集』)。
「情死の裏付けになってるのは今のところ、東京駅の二人が恋人らしく見えたってことだけなんだよ」。
小林恒夫監督の『点と線』(1958年)では、恋人「らしく見えた」というだけで、警察は佐山とお時を心中と決め付けてしまう。「空想性」の強いこの事件に、違和感を憶える三原警部補。
「如何にも形は心中です。しかし、あまりにもよく出来すぎてます。何か他に別なものが隠されてるといった感じです」。
佐山とお時は「現実」には、顔見知り程度の仲だったことがやがて判明する。「感覚」をベースとする世界には、「形」以外の裏付けがない。戦争映画が好きな川北紘一は、『地球防衛軍』の後半を退屈に感じた。「形」だけが存在する「SF的な世界観」は、何かを隠すことで成り立っている。