NOT STATION
ガラスが破れるような音で目が覚めた、
私は柱の住人、一般人には私は見えない、
何故なら人間の一般社会が縦軸なら私のいる空間は横軸なのだから、
又その逆も言えている、
しかし例外があって一人の音楽家には私が見えるらしかった。
私はその音楽家の楽器を特上の音に調律したり楽曲に息吹を与えたりした。
もちろん彼には内緒のはずだったのだがやはり気付かれてしまった様だ。
そんなこんなで彼は一流の音楽家になっていた。
私への感謝も忘れなかったが、私は気持ちだけで充分だった、
そんな関係を続けていたある日、私の住んでいた柱が撤去されていた。
しかし次に行く所は決まっている、私の同類とも言える者達がいる場所だ、
私は音楽家に別れも告げずそこへと向かった。
そこは数多の彫刻がある場所だった、
それぞれの彫刻に仲間たちが息吹を与えていた。
彼らは私に興味があるらしくこれらの彫刻を創った芸術家に合わせてくれた。
その芸術家は私を見るなりエラく興奮していた。
真っ直ぐな視線とソプラノの口調が印象的な純粋無垢な男だった。
彼は私の故郷が分かるらしく行ってみたくはないかと聞いてきた。
私の故郷?確かに自分は何処から来たのかに興味がある。
私は彼が用意した彼の作品「理想号」と言う円形の乗り物に乗り込んだ。
もう少しマシな名前はないのかとも思ったが、
これも彼の実直な性格を物語っているのだろう。
発進してまもなくドアが空き私は駅のホームに降りた、無人だった。
改札を出て周りを見渡すと無数のキラキラ輝くガラスの破片の様なものが散らばっていた、
ある作品が破壊された残骸らい、
歪なチューブ状の光る彫刻の写真が展示してあった、
これが何らかの理由でで破壊されたのか?
そしてそこには赤い長靴が無造作に置かれていた。
私は長靴を拾って駅の外に出た。
私を迎えたのは眼前に広がる巨大なブロンズの彫刻だった。
この山の様な彫刻は頂上部に巨大な卵が2つあり
片方の卵からは巨大な蛙が飛び出して蛇をしっぽから飲み込んでいる、
飲み込まれている蛇は一回り小さい蛙を後ろから飲み込み、、
と、蛙から始まり、蛇、蛙、蛇、、、の繰り返しでスロープを下りながらこちらに向かってドンドン小さくなっていた、
もう片方の卵からは巨大な蛇が飛び出して蛙を後ろから飲み込んでいる。
飲み込まれている蛙は一回り小さな蛇をしっぽから飲み込み、、
と、蛇から始まり蛙、蛇、蛙、、、、、の繰り返しでスロープを降りながらこちらに向かってドンドン小さくなっていた。
私はこの作品の先端はどうなっているのかが気になり麓まで近づいてみた、
赤い長靴を持って、、
巨大な蛇から始まった方は最後は染色体の様な細い糸になっていた。
巨大な蛙から始まった方は最後は何故か微細なオタマジャクシになっていた。
オタマジャクシと染色体?何やら意味がありそうだ。
私はこの山の裏側に回り込んでみた、
なる程、この作品を支えている山全体は大きな胚だったのか。
そしてその胚の丸めた背中がスロープとなっていた。
その時背中を優しく叩かれた、振り向くと裸足の少女だった。
私は手にもっていた赤い長靴を少女に渡すと少女は直ぐにそれを履き、
わたしの手を取り駅に向かった。
駅のホームに停車中の「理想号」に二人で乗り込むとそれは動き出した。
発進してまもなくドアが開き外に出るとそこは駅ではなく広大な田園風景だった、
田んぼの中には色鮮やかな何体かの巨大な神の像と胚の彫刻が散らばるように置かれていた。
それらの中に納屋のようなボロ屋があって老人が外で我々を手招きしていた、
我々はそこへと向かった、
着いてみると老人の横にはチューブ状の光る彫刻があった、
あの写真の破壊された作品だった。
老人の作品らしい、彼が言うには我々は何度もここへ来ているのだそうだ、
そして再びこの作品の中に入ってそれぞれの元の世界に戻る事になっているらしい、
この作品の入口とは老人の立っている辺りにある水溜りとの事だった、
何故に何度もこの往復をしなくてはならないのか?
老人は「次回は空でも破ろうかのお、変化も必要じゃて、戻ってみると少し変わってるかもしれんのお」
と言って空に筆を走らせた、すると空に線が引かれた、
老人は独り言を始めた。
「高い程近い空間、遠近法を逆に、卵の矛盾、一体化の失策、不安定な法則、、
お前達にもそろそろ言葉を与えんとな、、」
ふと私は老人の立っている辺りの水溜りに目をやると赤い長靴が置かれていた。
少女はこの作品に入っていったのだと悟った私も長靴を持って後を追った。
ガラスが破れるような音で目が覚めた、
私は柱の住人、一般人には私は見えない、
何故なら人間の一般社会が縦軸なら私のいる空間は横軸なのだから、
又その逆も言えている、
しかし例外があって一人の画家には私が見えるらしかった。
私はその画家の絵の具で特上の色彩を作ったり作品に息吹を与えたりした。
もちろん彼には内緒のはずだったのだがやはり気付かれてしまった様だ。
そんなこんなで彼は一流の画家になっていた。
そんな関係を続けていたある日、私の住んでいた柱が撤去されていた。
別れ際に彼のアトリエに行ってみると本が置かれていた、
どうやらそれは私を呼び出す為のマニュアルだった。
END
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