【音霧雑記】半沢直樹最終回・大団円感想
最早昨日の視聴で、身も心も熱くなった私。辛い現実も生きてやろうじゃねえかと発破かけられた私。
どれだけの人がこの壮大なドラマに救われたのだろうか。私は明日から、半沢直樹のいない日曜日を過ごすことになるが、怖いものなどない。最終回でくれた熱さは決して燻ぶる事などありはしない。
この記事は半沢直樹最終回の、いえ。これまでの半沢直樹の過去放送分すべてに関わるネタバレを含みます。まだ見ていないならパラビとかで全話視聴後に暇な時間で読み進めてください。
若者が先達の背を押す
半沢直樹における剣道とは、視覚的に胸中を見ることの出来る重要なシーンです。1人無心に素振りをし絶叫する半沢直樹の視界と胸の奥は真っ暗で、何も分からない状況でした。そこに現れたセントラル証券時代の部下森山と、スパイラル社の瀬名社長。3人でぶち当たり続けて疲労困憊になり、シンプルに物事を考えるに至ります。
しかしこの瀬名社長、鳴声がうるさいのであるw
人を見る経験値MAXの半沢直樹
数多くの融資を実行し成功を収め、対人スキルは極まっている半沢直樹。白井大臣の秘書の動向を見た上で自陣に歓迎できると踏めば、すぐさまあの場に居たことを白状し、鍵を得る力にしようとした。人の心に踏み込むのではなく飛び込むのが半沢流。
そしてタスクフォースという、帝国航空再建の邪魔立てである白井大臣がどういう人物なのかを再確認しに行くシーンも見物。恐らくは以前花ちゃんから「人が変わったみたい」という言葉を覚えていて、心中に正義があるかどうかを確かめに行く。
最重要人物はやっぱり奥さん
そんな白井大臣が自身の正義を思い起こし、謀反を企てる切欠を与えたのは半沢直樹だ。頭取と大和田も加わって解きほぐす。
それでも半沢花という存在がなければ、それらは水泡に帰していた。
クリーンなイメージで女性からの支持も厚い、新人ながら人気絶頂の白井大臣。箕部幹事長は彼女を推挙したまでは正しいが、客寄せパンダ程度のお飾りにしか考えていなかった(=民意を理解していない)。彼女の根底にあったのは紛れもない正義の心で、そのためなら箕部に服従するも厭わなかった。
服従し続けて曇っていく彼女の心を、花ちゃんが民意の代表として桔梗の花を与える。そして応援している者がいる事を思い出す。自分が持っていた政治家への理念を思い出す。この一輪の桔梗は箕部幹事長に踏みつけられたが、押し花として大切に持っていた辺り「民意を第一に考える」方というのが伝わります。
協力しても見返りのない勝負の場に白井大臣を出陣させたのは、自身が大事にする民意(花ちゃん)からの無償の声援だった。
花ちゃんは前期でもそうですが、ここぞという大事な場面で重大なヒントをくれる。西大阪スチール編ではネイルサロンを開業したいがために東田に付き添っていた藤沢未樹を懐柔する際に、半沢はいつも通り脅迫で落とそうとしたが失敗に終わった。しかし花ちゃんから「女だって仕事をするにはそれなりの理由がある」という事を受けて、真っ当にバンカーとして彼女を懐柔するという展開に切り替わり成功する。
伊勢島ホテル編についても、最後の最後で近藤が掴んだ証拠を大和田に握り潰されて万事休すな場面。状況証拠はあっても最早打つ手もないという進退窮まっている時に、婦人会で得た情報が反撃の一矢を与えることになる。
残念ながらセントラル証券編ではコレと言った活躍は見せない、帝国航空編では1度も画面に映らない回もあって不遇だと思っていた。最後の最後で、半沢直樹たちバンカーには出来ないことをやってのけた。背景に映る花々のように、裏方だけどその場を好転させてくれる縁の下の力持ちです。
だからこそ彼女の言う言葉や、「銀行なんかやめちまえ」という背中をひっ叩いて勇気を与えるときなどが本当に強い。
前期出向理由と大和田への頭取評価
前期最終回最後の場面でセントラル証券へ出向した半沢直樹。どうして出向させたのか。逆にどうして大和田を役員に残したかの理由が明かされます。
頭取と言えば9話で箕部に核心たる情報が詰まった封筒を献上したシーンが印象的でしたが、これだけでは倒せないと笠松から聞いたことで真意を理解するに至ります。正直ここで退職届を出すと思っていたけど、それは別のシーンで、白井大臣を自陣に引き入れるための覚悟の証でした。
半沢と大和田という2人のバンカーを、頭取は大きく評価していました。
大和田を土下座させてしまったことで銀行内で大和田派に攻撃を受ける可能性を考慮し、半沢を証券という重要な場所に送り込んで経験値を積ませるという一石二鳥の奇策を打った頭取。これなら「よく戻ってきてくれた」と言っていた意味も分かります。これまで出会ってきた中でもピカ一という評価まで下していて、彼もまた半沢という男に魅せられたバンカーなのだと分かってしまうのです。
そして大和田への人事については、行内融和以上に「ここで失うのは惜しい超優秀なバンカー」と評価しています。確かに、権謀術策だけでのし上れるなら苦労はない銀行内で、若くして常務取締役まで昇り詰めることができた逸材を手放すのは惜しい。
大和田には過去を、半沢には未来を託したという頭取の考え方はあまりにも壮大。銀行という存在を一番マクロ視点で見ることが出来、ミクロ視点でも見ることが出来る、半沢と大和田の才覚を足したような御仁でした。
3人で1000倍返しどころじゃない
白井大臣、秘書の笠松という強力な仲間を最後の最後で獲得した半沢直樹。
頭取も大和田も裏切っていたわけではないと確認した。
親友の渡真利,好敵手の黒崎,タブレットの福山,尽力した富岡さんがくれた情報を持ち、あと1割の情報で勝てる所までのし上った半沢直樹。
過去に起きた牧野さんと棺の会、旧Tの因習を清算するため、そして銀行という未来のために、半沢が立った舞台はマスコミが大挙存在する決戦場。
帝国航空編はこれまで5話で1編という半沢直樹のフォーマットが崩れた大長編だ。セントラル証券編は4話で終わったし、なんなら4話目の最後10分は既に帝国航空編に突入していた。約6話と10分もかけて、これまでの難敵を味方につけてようやく一矢報いることが出来る、間違いなく本作最強の敵が、箕部幹事長だ。
その箕部を倒す場として、国民のだれもが注目しているこの舞台は、引導を渡すに相応しい。
しかし。あと1割足りなかったのだ。
箕部幹事長が隠している108億もの金。その在処はいくつもある海外銀行の内1つに存在し、調べられるのは1度きりというヒントのないモグラたたき。
当然、半沢と大和田、頭取の3人が手を組むだけでは足りない。だからこそ足りない力は別の力で補う。これなんて少年ジャンプ理論???
第一の矢:アクセス
笠松が隙を見計らって箕部幹事長のパソコンからアクセスデータを取得。ここで多数アクセスする銀行が、隠し金の在処である。しかし笠松にはハッキング能力はない、どうするか?
半沢直樹世界でハッキングと言えば、「狙われた半沢直樹のパスワード」という外伝作品で主役を務めた高坂による極めて優れたハッキング技術だ。本作の3話でも登場し、黒崎と電脳戦を繰り広げて見事勝利を収めている。
高坂は登場しないが、笠松の持つUSBメモリは外伝作内で重要な役割を持ち、その一方でクラウドネットワーク発展の現代においては「時代遅れ」の代物として扱われている。これを差し込むシーンを見て、このアクセスプログラムを作った人物が誰なのかは一発で想像できることでしょう。
このシーンはスパイラルと大臣という強力なコラボで実現した胸が熱くなるシーンです、というかもう既に熱いです。
第二の矢:国税調査
左遷されても己の正義をもって仕事をする黒崎。3度半沢直樹と戦って3回苦渋を舐めてきた彼だが、それだけ戦えるほど強い相手である半沢には強い敬意と愛を持っている。(だからと言って半沢の股間を指さしたり掴んだりするのはアカン)
箕部幹事長という巨悪を討つために手を貸して半沢のバックアップをする。あれほど憎たらしかった敵のはずが、物凄く頼もしいことになってしまった。半沢だけでは調査できない範囲にまでその手を入れることが出来る黒崎は本作において超重要人物と言えます。
第三の矢:帝国航空の意志
あっさりと入手した箕部幹事長の不正送金の証拠。これを託されたのは帝国航空にいた大和田と山久さん。山久さんとしては、部下のクビを切らねばならない辛い立場の中、半沢が持ってきた新しい空港への受け入れ案件は望外の喜びで、そしてそれを潰した箕部幹事長への恨みは大きい。
自力復興を望む帝国航空は、政府の人気回復のためではなく、箕部の利益のために使い潰されるという屈辱を受ける所だった。打倒箕部を誓うのにこれ以上の理由はいらない。
ここで大和田が「出陣」と時代劇的な言い回しをするかと思いきや、飛行機をなぞらえてか「出撃」というのもまたカッコいい。
第四の矢:大和田
半沢直樹が様々な状況証拠と事実を並べ立てて、最後の最後の1割の証拠を渡す超重要場面。そこに颯爽と現れるのは、かつて半沢が100倍返しを決めた大和田その人だった。
箕部の静止に「耳を貸すが耳は聞こえない」というジョークで聞く耳持たずに半沢へ「はい1000倍」と資料を渡した大和田は痛快で、
「思いっ切り、やり返しなさい」
と半沢の背中を押したのはあまりにも感動的で、私は笑いながら泣いていた。何だこのドラマは。あまりにも凄い。この感動は何度でも噛み締めることが出来ると確信した。
この時のマスコミの心境を考えてみよう
マスコミとしては「どうせ債権放棄するんだろう?」という考えでいたに違いない。だからこれは政府のパフォーマンスであることなど百も承知で、退屈だろうけど仕事だし取材に行かねばならないと考えていたことでしょう。
しかし突如現れた頭取直々に任命した半沢直樹という男から、「債権放棄拒否」という政府への真っ向対立に色めき立つ。
そして白井大臣もタスクフォースへの無能さと半沢の言い分を評価するという、マスコミからしたら「何が起きている!!?」状態。正直ここの部分だけでも大スクープだ。箕部幹事長お抱えであると思われていた白井大臣が、箕部に謀反を起こすような真似をしたのだ。
『白井大臣、銀行側につく』『無能!!タスクフォースは丸写し!!』『政府内での明智光秀』等等、「明日の朝刊やニュースはこれで決まりだ!!」とマスコミは大喜びだったでしょう。
しかしこんな物は前座でしかない。
半沢直樹という男から次々と出される、箕部の利権問題。IS(伊勢志摩ステート)という企業との癒着と巨額の錬金術。東京中央銀行が過去に起こした不正融資と口止め料などの、政府と銀行の蜜月の日々が暴露される。
マスコミは思っただろう「退屈な会見だと思っていたら政府も銀行も吹っ飛ぶヤバい情報を全国放送で流す狂人がいる!!! ありがとうございます!! この問題だけで向こう一カ月はネタに困らないぞ!!!!!」
だが、どれも決定的な証拠はない。証拠はなくてもマスコミは大盛り上がり出来るから既に箕部や政党支持率は落ちたも同然だ……が、当然これで終わっては狂人の戯言にすぎない。
最後の一矢:真実に向かおうとする意志
あらゆる人物が協力してくれた、最後の最後、1000倍返しを成すための切り札。全部の力を合わせて1000倍返しというゆで先生理論、そして真実に向かおうとする意志、黄金の精神を見せた全員の、人間賛歌。
強大な敵に立ち向かう勇気の結集が生み出した矢は、半沢直樹という弓から箕部の心臓目掛けて放たれる。
だからこれなんて言う少年ジャンプ!!?
足りなかった最後の証拠もそろったことで、マスコミはもう絶頂もの。今すぐ逃げようとする箕部だが、白井大臣が退路を阻む。そして土下座……は、あまりにも「やりましたよ」感満載でまるで誠意がない。
ここでわかったのだけど、箕部の頭は軽いのだ。自身の持つ権力があるから軽い土下座でも充分通じていたが、全てを白日の下に晒された今はその権力という威光が消え失せている。そうなれば半沢曰く「欲深い老いぼれ」でしかない彼の土下座には、最早何の価値もない。全国民へ謝るにしても、既に謝って赦される問題ではないからと足早に去る無責任さは、本当にこいつが巨悪だったのかと疑ってしまう程。
そして自身の政治生命を一回終わりにしてでもこの不正を明らかにして見せた白井大臣は、その決断が良かったか悪かったのかを半沢に握手することで証明してくれた。
ついでに言うと今回の大暴露会見によって、乃原は銀行を脅す材料が枯渇。弁護士会からも追放されたのだった。どうでもいい話だけどもね。
白井大臣の今後
大臣辞任どころか議員辞職をし、新たに無所属からの再出発を決意した白井大臣の顔は晴れ晴れとしていた。そして白井議員を推していた笠松も1から彼女の補佐をするべく推参する。そこに、花ちゃんが花を贈呈するシーンに笑みが零れていた。
半沢直樹世界において、夫婦限らずパートナーがいる者は総じて強い。笠松という信頼出来るパートナーがついている白井元大臣は政界進出の大きな助けを得ているだろう。そして箕部の不正を共に暴いたことで、彼女が持つクリーンなイメージは損ねられるどころか跳ね上がったことだろう。ただでさえ大きかった女性からの支持は今回の一件で相当上がったのではないだろうか。次の選挙では普通に勝てるだろう。
友の静止と頭取のケジメ
白井大臣は何の見返りもない勝負の舞台に立って、職を失った。中野渡頭取も今回の一件で頭取としての責任を取り、銀行から退いた。
それなのに、事の発端で当事者である自分だけ残るなんてどう考えても筋が通らない。半沢直樹はそれらの責任を感じてバンカーを辞めることを選ぶ。
渡真利による必死の説得にも耳を貸さない。親友で同期の彼でも、半沢直樹の決心を覆すことは出来ない。これまで半沢のために忍びとして奮闘してきた彼の言葉でも、半沢はブレなかった。私はこのシーンを見て、ああ、本当に半沢はここで終わってしまうんだなと、真の半沢ロスにしみじみとビールを飲む。
この物語は、半沢と大和田の物語
原作版と決定的にちがうのは、大和田常務という存在が伊勢島ホテル編にしか出なかったこと。半沢の父を間接的に殺した因縁などもない。
このドラマは前期に、大和田への復讐を成し遂げる勧善懲悪物、忠臣蔵、必殺仕置人を彷彿とさせる展開があった。それゆえに前期10話は半沢と大和田の戦いの物語だったのだ。
しかし今作では復讐は成し遂げられている状況から始まり、大和田とは共闘関係も描いており、最早2人の物語は別の形へとなった。憎き仇から、憎たらしいけど心強い味方になったのだ。
頭取や親友が半沢に辞めるなという言葉を投げかけても聞く耳を持たない半沢は、最後に因縁の相手からの電話で再び、土下座をさせた場所で相対。
何を話すのかと思っていたが、大和田は沈みゆく東京中央銀行から身を引いて転職すると宣言。「こんな銀行に残るなんて死んでも嫌だね」という言葉に、正義を以て悪と共闘した熱き男の姿はなく、半沢は軽蔑の眼差しを向ける。
そしてかつて、半沢の父への融資を打ち切った件を語り始めもするのだ。人として間違っていたかもしれないし、その結果半沢の父が死んだことは詫びた上で、「それでもあの時融資を打ち切った判断は間違いなかった」と、バンカーとして自身の持つ正義には忠実だったと明かす。
因縁というのは根深いもので、絆以上に確かな縁だ。大和田はそれを十分理解している。半沢の考え方も理解しているし、辞めてしまうことも理解している。だから再度自身が悪役になり、半沢を煽り立てる。「こんな銀行はもう駄目だ」と。ネジ工場の融資を打ち切った判断同様に未来などないと斬り捨てるのだ。
だがその考えに、考え方が真っ向違う半沢は当然異を唱える。「潰れかけの所に融資をして復活させるのが仕事だ」「この銀行にも未来はある」と。大和田はそのまま乗せる。
「銀行を変えるとなれば、今の地位では足りない。頭取になるしかない」
半沢にヤル気を出させ、発破かけ、頭取と自分が全ての責任を引被る代わりに、やってみせろと熱いエールを送る。土下座をかけた勝負を申し入れる。「受けて立て!!」と絶叫し、「やれえええ半沢あああ!!」を想起させる。
「この世で一番嫌いなお前を、全人生をかけて叩き潰す!!」
「完膚なきまでにあなたを叩き潰す!!」
そういう、本来は酷い応酬なのに、大和田の顔は笑みが溢れ、退職届を破り捨てた紙風吹を幕引きに「あばよ!!!」と去っていく。
父の命を奪った仇は、再び敵となった。しかしそれはどす黒い感情を向ける敵ではなく、自身の銀行員生命全てを賭けた戦いに相応しい人生のライバルなのだ。
前期最終話、険しい顔で終わった半沢直樹。今作最後は、半沢直樹の笑顔で幕を引いた。それは新たな目標と、自身が付けるべきケジメ、夢を叶えるための頭取への成り上がりへの、そして大和田との生涯かけた戦いへの幕開けなのです。
熱すぎて泣くわこんなん。
ねえ、これを見て感情高ぶって結局12時超えても眠れなかったのはどうしてくれるんだほんまって感じですわ。大和田を最後の最後まで一筋縄では語れない作中どころかドラマ史に残りそうな名悪役に仕立て上げたドラマ関係者には感謝してもしたりないわ。
もう本当に、最高のドラマを、ありがとうございます!
今年の情勢を踏まえた花ちゃんの、半沢直樹の言葉は涙腺が緩みっぱなしで泣きました。何となく生きるためなんかじゃないんだ。ありもしない幻想かもしれん、不確定で愛おしい未来のために私たちは日々奮闘しているんだ。生きていればこそという言葉を肝に銘じて、私はこの記事を〆ます。
最後に、ドラマ関係者の皆様へ、この3か月間、全く退屈しなかった素晴らしき日々を、ありがとうございました!!
サポート1人を1億回繰り返せば音霧カナタは仕事を辞めて日本温泉巡りの旅に行こうかなとか考えてるそうです。そういう奴なので1億人に到達するまではサポート1人増える度に死に物狂いで頑張ります。