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ロバート・ミッチャム『ちゃんとした女の子は朝食までいるもんじゃない』

こんな映画が出来ていることを2カ月くらい前まで知らなかった。写真家・ブルース・ウェバーによる俳優ロバート・ミッチャムのドキュメンタリーというか、ロバート・ミッチャムを題材としたエッセイ的な映画というか。2017年あたりから各国の映画祭にかかって、フランスでは2018年に劇場公開、去年、Blu-rayにもなったということでその仏盤を買いました。

タイトルは『NICE GIRLS DON'T STAY FOR BREAKFAST(ちゃんとした女の子は朝食までいるもんじゃない)』というもので、これはミッチャムが映画で共演したこともあり、また歌手としても敬愛しているというジュリー・ロンドンの歌のタイトル。女性の一人称で歌われる歌で、「ちゃんとした女の子は朝食までいちゃいけないってニューヨークでもローマでも言うでしょう、あたしはいい子だからもう帰るね」みたいなことを言いながら、曲の最後に「お願いがあるの、ジャムを取って頂戴」と、まあ、結局、朝までいちゃったというオチの歌。

ブルース・ウェバーと言えば男性を数多く撮ってきた写真家です(女性も沢山撮ってますが)。今、やはり写真家バート・スターンが撮ったコンサート映画『真夏の夜のジャズ』が劇場公開されてますけれども、ウェバーもいくつか映画を作ってて、1980年代にはジャズ・ミュージシャン、チェット・ベイカーを撮ったドキュメンタリー映画『レッツ・ゲット・ロスト』もあります。チェットは若い頃はルックス的にもジャズ界のジェームズ・ディーンなんて言われ、トランペットも吹けば中性的な声で歌も歌う。ただまあ、何度かの結婚生活もグズグズで、最後の最後まで麻薬中毒で、なかなかの転落人生を歩んだ人でもあり、そこらへんのルーザー体質も含めて、ウェバーの被写体として実に上手くはまったという感じ。本人や関係者、前の奥さんや息子たちのインタビューやレコーディング風景の様子(モノクロです)と、過去のTV番組とか映画出演時のフッテージを組み合わせて2時間くらいにまとめてました(下は英国版のDVDと、イタリア版のBlu-ray……まあ、好きなんですよね。Blu-rayはイタリアでしか出てないと思います)。

で、今回の映画もまさに、その『レッツ・ゲット・ロスト』のロバート・ミッチャム版、という作りでした。きっとそうなんだろう、いや、そうであってほしい、とすら思ってたので、ホント嬉しい(もっとも、僕、ミッチャムの映画、数えるほどしか観てないんです。ただ、『狩人の夜』という映画のBlu-rayを作ったので、これだけは制作の過程でかなりの回数を見ました。さらに、特典として収録した本編より1時間長い2時間40分のメイキング映像も何度も見ました。この映画一つだけでも、彼の魅力のかなりの部分は知れます)。過去の映画からの再録部分以外はモノクロだし、インタビュー等、ウェバー組が撮影した部分は全てほぼ4:3のスタンダード・サイズ、しかも粒子の粗い白黒フィルム撮影。粗いとはいってもそこに十分な美しさがあり、僕は一瞬、「これ、デジタル撮影して、後からフィルムっぽいグレイン(粒子)を足す加工をした?」と思ったんですが、考えてみればロバート・ミッチャムは1997年に79歳で亡くなっている。この映画の中で、ミッチャムは、かつてフランク・シナトラもそこを使ったキャピトル・レコードのスタジオで、Dr. ジョン(彼も昨年亡くなりました)やリッキー・リー・ジョーンズ、マリアンヌ・フェイスフルらとレコードの録音をやっていて(その音源はこの映画と同時に600枚限定のアナログLPとして初めて世に出ました。映画のタイトルとなった曲ほかジャズのスタンダード、トム・ウェイツの「ジャージー・ガール」なんかもDr. ジョンのいかにもニューオリンズっぽいアレンジでやってます))、それは1993年のことだったらしい。となると、ビデオ撮影はあっても、デジタル撮影なんてものは一般には存在しなかった時代です。ウェバーは、もう30年近く前に撮影されたモノクロ・フィルムを編集して、ようやく、最近、完成させたわけですね。で、前述の『レッツ・ゲット・ロスト』の公開は1988年ですから、そう離れていない。だから、撮影のスタイルや、映画としての方法論が近いのも当然と言えば当然。実際、ミッチャムの映画を作ろうと思ったのは、ウェバーが撮影の合間にチェットと歓談してた時に、ミッチャム映画の話題でひとしきり盛り上がったのがきっかけだったみたいです。

映画そのものは英語で展開しますが、フランス版のBlu-rayということで、フランス語の字幕は出ても、英語の字幕が出てくれない。自分の限られた聞き取り能力では全体の半分も理解出来てないのですが、面白かったです(笑)。まあ、なんつってもロバート・ミッチャムですからね。そこにいるだけで画になる。加えて、ウェバー組のクルーは本当にいい映像撮るんですよ(クレジットを見る限りでは、ウェバー自身はスチルしか撮ってないっぽい)。で、先ほどのレコーディングの時の音源や、過去の他の録音(ミッチャムは昔、カリプソのアルバムとか出してる)、いろんな映画の印象的な出演シーンなんかを巧みにコラージュしつつ、いかにもウェバーの好きそうな美しい男性、女性、犬なんかの映像も、ゴダール並みに唐突にカットアップされて、彼の生み出す独特の「時間」、タイム感覚に浸る悦びがあります。

あと、ミッチャムを語るゲストが凄いんだ。当然、共演歴のある人が多いわけですが、ジョニー・デップ、ベニシオ・デル・トロ、ダニー・トレホ、クリント・イーストウッド、リーアム・ニーソン……男が惚れる男。

また、映画と同時に、「ロバート・ミッチャム・スクラップブック」みたいのが作られていて、これもなかなか楽しい作りです。『レッツ・ゲット・ロスト』の時も同じような写真集を作ったんですが、当時7000円くらいで買えたものが、今の相場は20万円前後になってます。ウェバーの写真集は部数が少ないこともあって、けっこう後から値段上がる。今回のも1500部限定みたい。Blu-ray、レコード、本は全て、フランスのここで買えますので(Blu-rayはリージョンフリー)、お好きな方はお早めに。単品でなく、まとめ買いすると割引もあります(笑)。なかなか日本公開されるのも難しいでしょうから。


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