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第8回新千歳空港国際アニメーション映画祭

11/9(木)から19日(金)まで、この映画祭にかかった100本以上の短編と現地開催時に行われた講演のアーカイブ(トータルで30時間44分)が2500円で見放題になっています。一度お金を払ってログインされた方が、ここで紹介する作品群のタイトルをクリックすると、その視聴ページにダイレクトに飛べるようにリンクを貼りましたのでご利用ください。もともとアニメーションがお好きな方はもちろん、映画が好きな方、映像が好きな方、絵が好きな方、なにか自分の表現をしている方、これからしようとしている方にとっては「こんな語り方があるのか」と驚く作品がたくさんあると思います。NetflixでもAmazonでもHuluでもU-NEXTでもGYAO!でも見ることのできない最新作の数々。そして期間限定ですので、ここで見逃したら二度と出会うチャンスのない作品もあるでしょう。

1日目(11/5)

 実に2年ぶりに飛行機に乗りまして(2年前は何かと言えば、故郷・山口県防府市に、片渕須直監督の『マイマイ新子と千年の魔法』の探検隊の取材撮影に行っていたのでした)、新千歳空港に。この空港に来るのは10年ぶりで、この空港内だけで完結するアニメーション映画祭、気にはなっていたんだけどこれまで機会を得ず、今回、講演ゲストとしてお呼びいただいて初めて参加させていただいた次第です。

 その講演は明日、11/6(土)の17時45分から、You Tubeで無料配信あります。お題は5年前にやったロシアのユーリー・ノルシュテイン、そして今年やった川本喜八郎、岡本忠成の作品の修復、公開についての話です(シュヴァンクマイエルについても少し)。基本的に、新作のコンペティションがメインの映画祭ですが、これまでもいわゆるクラシック、旧作の上映もありました。しかし、今年のそのカテゴリーというか役目のほとんどは、この4人の作家の作品の上映と、僕のトークでカバーという感じで、いささか責任を感じますが、がんばります。

 今日のお昼過ぎに現地に付きまして、音楽を主体とした「ミュージックアニメーションコンペティション」のコマを途中から、そして「日本コンペティション」のコマを全部拝見しました。以下に、特に印象に残った作品を自分の備忘のためにという意味も含めて記しておきます。すぐに忘れてしまうので。ハービー・ニコルズを聴きながら(我ながら渋すぎる)。Macbook Airのスピーカー、ものすごく進化してますね。嬉しいです。

 まずは「ミュージックアニメーションコンペティション」

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Czarodzielnica
監督: Klaudia Ptasińska
2020年 / ポーランド / 0:04:10

まあ、要はPVとかMV的な意味合いで作られたアニメーション作品のコンペですね。これは夫婦者が家でご飯食べたりしてるんだけど、妻の方が妄想で自分は庭でダンスしまくってる、みたいな……。重心の重いスラブっぽいダンスビートでこの奥さんがなかなかよく踊る(実写を引き写したりしてたかな?)。なにしろ最近はコンサートも開かれなかったし、映画館のような容積で大音量で音楽が流れるだけで、かなりご機嫌のワタシです。
*この作品は、この音楽カテゴリーの最高賞に輝きました。

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Boy Oh Boy
監督: Stephen Irwin
2020年 / イギリス / 0:01:30

これは超短いんですけどね。小さい子どもがお皿に残った白いサムシングをかき混ぜながら「ミルキーウェイ〜」って言ってる声をサンプリングして(そこは実写部分もあって)、やっぱりダンスビートっぽい音にまとめてあって。それにいかにも子どもの落書きっぽい手描きの描線とCGがキレイにミックスされてて感じ良かった。

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I’ll Always
監督: Sabine Groschup
2020年 / オーストリア / 0:04:19

今日観た中ではこれがドンピシャだったかも。割とストレートな女声のラヴソングに乗せて、愛の姿や言葉が動くんですけど、絵が全部、封筒の裏面に描いてあるんですよ。しかも封の上が開封されて……ラヴレターって感じですかね。それで封のベロの部分で当然、描線に段差が出来たりして、そこの物質感もたまらなく良かった。2889枚描いたそうですが、なんかもっとたくさんな印象がある。

こういう個人作家のアニメーションを久しぶりに大スクリーンで観る、ということをして思ったんですが、結局ね、絵そのものにどれだけ力があるか、ということが大事になってくる。スクリーンは小細工が利かないなと。CGが悪いとは思いませんが、相当なアイデアがないと「ああ、はいはい」と流してしまう自分がいる。味わいのある手描きの絵や、センスのある動きは、やっぱり予定調和じゃないスリルがあります。

つづいて「日本コンペティション」。日本の作家縛りですね。

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On Time Off Time
監督: 岩崎 宏俊
2020年 / 日本 / 0:09:28

これはストーリーでなくて、ビデオアートみたいな作品。音楽もすごくブライアン・イーノっぽかった。人の身体の動き、ダンスとか水泳とかカポエイラ?とかを、木炭で描いては消してのアニメーション。なので前のコマの消した後もうっすら残ってそれが味わいに。そしてそれを画面分割してコラージュする、その各コマ同士の生み出すタイミングの心地よさみたいなものがあって、これはけっこう好きだったな。イーノのビデオアート作品『Thursday Afternoon』のことをちょっと思い出しました。

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Moon Boy
監督: 谷村 泉美
2021年 / 日本 / 0:04:49

これは笑った。まったく先の読めないシュールな展開で。いつ終わったのかも分からなかった(クレジットがなかったので、一瞬、次の作品が続きなのかと思った)。この画像にいる人がファミレスで月の観察してるんですが(その状況からして分からん。テーブルの上の食べ残しは誰のものなのか?)、急に月の明かりが消えまして。で、その原因を探しに行くと、『アパートの鍵貸します』みたいな大企業で机並べて働いてる人の中に、月のスイッチ担当の人がいて……。

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45Rオフィシャルサイトアニメーション
監督: 姫田 真武
2020年 / 日本 / 0:04:00

一言で言ってシャレオツ笑。「45R」っていうファッション・ブランド(僕は知りませんでしたけども)のためのショートクリップの集積なんですが、夫婦ものが季節季節の何かをひとつ20秒くらいで見せてくれます。桜とか風鈴とか落ち葉とか。なんだろう、TV番組のアイキャッチとかジングルみたいな時間感覚なんだけど、そのストンとした落とし方もいいんですよ。これもやっぱり水彩の絵の密度が素晴らしい。そして動きのアイデアも気が利いてて。こういうのあったら、それはブランドとしては本当にイイですよね。プラスイメージにしかならない。

というわけで今日はここまで。本当は夜も1プログラム観ようと思っていたんですが、ホテルにチェックインしてビールをちょっと舐めたらもうダメでした……。あしたのトークのスライドがまだ出来てない……。

2日目(11/8)

マスタークラス 特集上映:
岩井澤健治、Ru Kuwahata ベスト・セレクション

この日の朝はこちらから。岩井澤監督が大橋裕之の漫画をアニメ化した長編『音楽』は涙が出るほど笑ったし、日本で流行ってるいわゆる「アニメ」とも、この映画祭の大部分を占めるような作家性の強い「アニメーション」とも何か別の次元にあるような、大好きな作品です。なので、それ以前の短編を是非観てみたかった。一番最初、2008年の『福来町、トンネル路地の男』は描線への異様な執着がスゴい。でも、やっぱり『音楽』と同様、大橋裕之原作の『山』(2010)、『太郎は水になりたかった』(2019)がとてもいい。相性がいいんでしょうね。会話やカットの展開の間合いが抜群に素晴らしく、またそれぞれのキャラをやってる人たちの声の演技もいいんだなあ。岩井澤監督の『音楽』公開時の作戦についてのお話はこちらで見られます。このトークも面白いです。

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で、その後は、夕方に自分がやる講演に関係する、修復されたノルシュテイン、川本喜八郎、岡本忠成の上映のコマに途中から滑り込み。岡本さんの『チコタン』『おこんじょうるり』しか観られなかったけど、ちょっと音が小さかったかな。DCPに入れた音のレベルも昨今の映画よりは少し小さめにしたんだけど(大音量で観るような作品でもないし)、もう少し出してもらってもよかったかもしれない。それにしても、そこそこ大きなスクリーンでしたので、やはり4K修復が活きますね。画面の精細さはもちろん、画面の中のどこで誰に演技をさせるか、その構成の巧みさもよく分かる。そして、小さい画面だとデジタルでしっかりすくい取ったフィルムの粒子感が少し過剰に感じられることもあるんだけど、大スクリーンだと散らばって、本当にフィルムで上映してるかのように見えます。

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さらに、これも講演と関係のあるヤン・シュヴァンクマイエルの『オテサーネク』(弊社からBlu-rayも出てます)。これ、オリジナルから5.1ch、それもハリウッド映画のそれとはかなり違う、画面のカメラ位置を徹底的に意識したドラスティックな音の配置が面白く、また実に怖いんですが(不妊の夫婦が切り株を自分たちの子供として育てるうちにそれが本当に成長して怪物になってしまうというチェコの怖い童話がベースになってます)、本国からのデータをオノ セイゲンさんに丁寧にマスタリングしてもらった効果がキッチリ出てました(実は僕は劇場空間で観るのは今日が初めてだったんです)。場面によっては自分が怪物の口から胃袋の中に入ってしまったかのような……。随所で使われるクラシック音楽の鳴りも本当に良かった。

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で、この日の白眉は、普段からお世話になってもいる作家・山村浩二さんのこれまでの最長の作品となる最新作『幾多の北』(64分!これはオンライン配信ナシ)のワールド・プレミア上映。実はスクリーナーでは先に見せていただいていて、既に「これは凄え!」となっていたんですが、やはり大スクリーンとサラウンド音響で観ないとその真価は味わえないだろうということも感じていたので、ついに、という感じでした。長編だからといって決してナラティヴの作りではなく、緩やかな団子の串を持ちつつそこにぶらさがるイメージの集成を前に立ち尽くすのみ……(座って観てますけども)。イメージの元にもなっているオランダのウィレム・ブロイカー楽団のどこかフェリーニレスクというのかニーノ・ロータ風でもあるサーカス的な管楽器の響きがまた! これはもうあんまり言わない方がいいので、観られるときが来たら迷わずこの世界に飛び込め、と言いたい。音楽を聴くように何度でも味わう、味わいたくなる作品だと思います。

幾多

そして夜は自分のオンライン講演と相成りまして、修復のお話、いたしました。ご覧いただいた方、ありがとうございます。見れなかったよ〜という方はこちらで。

その講演の中で初めて発表しましたが、今年、4K修復、劇場公開、放送までやってきた日本のアニメーションのレジェンド、川本喜八郎、岡本忠成の諸作、来年Blu-ray、そして4K Ultrara HD Blu-rayでリリースします。より詳しい情報は11月末には発表しますので、しばしお待ちを。

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同じ部屋で僕のあとの講演が、山村さんが『幾多の北』のメイキングを語る、というもので、そのまま残って拝聴いたしました。いちいち腑に落ちることが多くて、まあ、もちろん作品を観た後に聞いたほうがいいことはいいんだけど、映像作品を作ってる人にとっては値千金のお話だと思うので、こちらでぜひ見ていただければ。

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で、この流れで、終了後は、山村さんご夫妻、そして山村さんの東京藝大大学院でのアニメーションの教え子さんたち(今回の映画祭のコンペやピッチ=企画のプレゼン会に参加されている人たち)とホテルの僕の部屋でお疲れさまの部屋飲みに突入! なにしろプログラムの終わる8時すぎには空港内の飲食店はもう閉まってるので、開いてるコンビニ(コンビニも、講演会場になってたホールのある国際線側では便も少ないからか夕方5時には閉まってる)でお酒やおつまみを買って。いやー、飲み会自体も長らく出来てないし、こうした合宿もどきの飲み方も一体いつ以来やら……まるで学生時代に戻ったかのように楽しくて、痛飲してしまいました……。

3日目(11/7)

眠いし酒は残ってるし、なんだけど、それでも7時くらいには目が覚めてしまう……今日の上映は寝落ち必至。起きてた作品を紹介します笑。

学生コンペティション

Ten, Twenty, Thirty, Forty, Fifty Miles a Day
監督: Mathieu Georis
2020年 / ベルギー / 0:11:11

1107ナメクジ

キャンプに行ってる子どもがナメクジと知り合って……その関係性も面白かったし(ナメクジが喋ったりとかそういうのはないです)、とにかく筆の描線、そのタッチの魅力が素晴らしかった。モノトーンで画面を作るセンスもいいし、シーンごとにその色合いが変わって行くのもいい。その中での光の扱いも巧く、ナメクジの這ったあとのあのネバネバや、闇夜の懐中電灯等、ハッとさせられます。

Charlotte
監督: Zach Dorn
2021年 / アメリカ / 0:12:22

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この枠ではこれが抜群に良かった。見事な作劇。もう老いた女性フォークシンガーが、自分の曲が若いミュージシャンにカバーされてヒットし、そのカバーをした人に書いた手紙の中で、自分の生活や過去を振り返るという設定から掴まれる。その曲のオリジナルの方はジョニ・ミッチェルを意識したような曲調だ。今、尺の表示を見て「12分しかなかった?」と驚くほど、家族のいろんなエピソードが巧みに繋がれて大きな世界が広がっている。文学っぽいんですね。新潮クレスト・ブックスにでも入っていそうな感じ。段ボール等を使った素材の味わいも温かく、また面白い。中で子どもがカセットテープに吹き込む歌のリフレインがまた利いてるんだ。Dog Patient, Dog Patient, Dog Patient, Dog. What can you do? with Dod Patient....これはもう一回観たい。監督のプロフィールを見るとジュリー・テイモア(舞台の『ライオンキング』を作り上げた人。映画『フリーダ』の監督なんかも……そういえばU2の音楽でミュージカル化した『スパイダーマン』の話はどうなったんだ……準備段階で事故続きだった)とも仕事してるんですね。なるほどなあ。と、今、監督名でツイッターで検索かけたら、なんとこの作品の音楽、エマーソン北村さんも関わっておられたよう。びっくりです。

We Stand on the Hill, Proud and Gentle, Heading towards the Unknown and Death
監督: Linyou Xie
2020年 / イギリス / 0:12:56

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これはね〜、好きなところもあれば嫌いなところもあるんだけどね。おそらく南京市に育ってその後、ヨーロッパに行って活躍している監督の自伝的な作品。自分の記憶に残っている南京の風景をきれいなCGで描いていて、そこになんだか首を締められながら話してるような男の声で延々、昔の思い出のモノローグが被る。友達と酒を飲みながらネットカフェでゲームをしてた話しとか、街の向こうに住んでた彼女といよいよという時に父親が帰ってきちゃったとか……バックのトラックもなかなかかっこよくて、スポークンワードのレコードでも聴いてるみたいな感じ。全体の雰囲気はビー・ガンの映画を思い出した。ビー・ガンも凄いとこもあるけど、ちょっとというか、かなり苦手(笑)。何でしょうね? あの村上春樹を取り込んで自分なりにこじらせたような感じって、全世界的に、作家の病として、今、ありますよね? この作品ももう、タイトルからして「あー、ねー?」って……。ただね〜、この作品は人間が出てくると急にCGの至らなさにウーンってなっちゃって……これだったら、人間は出さずに風景だけで全部を語っても良かったんじゃないか、って思っちゃう。でも、まあ、完全には嫌いになれないヤツです。

インターナショナルコンペティション・ファミリー

子どもでも観られるという縛りのコンペ・カテゴリーですね。

すなば

すなば
Sandbox
監督: Garry Bardin
2021年 / ロシア / 0:11:00

砂場で遊ぶ3人の子どもたちの闘争と融和を描きます。人形アニメーションなんですが、その子どもたちの人形がリアルと言うかちょっと不気味な造形で。で、ピアノ音楽と人形の動きがぴったりシンクロして、どこかクラシックな感じ。クレジットのラストで富士フィルムのクレジットが出て「やはりそうか」となりましたがフィルム撮影のようです(意識的にフレームのアパーチャー=撮影窓の枠とでもいいますか……もDCP画面の中に焼きこまれてます)。最後にスマホが出てくるまで、ソ連時代の作品みたいにも見える。で、監督名を見たらガリ・バルディンってベテランの人じゃないですか。もう80歳ですよ。

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骨噛み
監督: 矢野 ほなみ
2021年 / 日本 / 0:09:45

今年のオタワ国際アニメーション映画祭でグランプリを獲って以来、向かうところ敵なし、既に国内外7つの賞に輝いている、今年のアニメーション界最大の話題作と言っても過言ではないでしょう。既に来年のアカデミー賞の短編アニメーション部門にもエントリーされている。監督で脚本を書き、全ての絵を描いている矢野さんは山村浩二さんの大学院の生徒さんでもあり、修了後も助手として院で働いて、そこを出てからの初の作品。観れば、なんでそんなに賞を獲ってるのか頷けると思う、あらゆる面から驚くべき作品だし、深い余韻を残します。実際、この新千歳でも短編部門審査員特別賞(岩井澤健治)と映画祭スポンサーの一社、北海道銀行賞の2冠に輝き(一つの作品で2つ賞を獲ったのはこれだけ)、受賞数を「9」に伸ばしたのでした。

早く学校に

はやく学校に戻りたい
監督: Angel David Hurtado Orozco
2021年 / コロンビア / 0:04:05

これはもう最後で泣いた。誰もいない学校の校舎やいろんな部分に、子どもたちの描いた絵をアニメーションにしたものがプロジェクターで投影されるんです。プロジェクション・マッピングみたいな感じで。で、子どものナレーションで「はやく学校に戻りたい」と。コロナで閉じてしまったコロンビアはボゴタの学校なんですね。映像そのものも美しいんだけど、こういう形で作品に仕上げるその愛にね、ホント、ほろりと。

インターナショナルコンペティション2

どんな映画祭も全ての作品を観ることはできませんね。並行していろんなプログラムが上映されてますから。なので観てないプログラムになんかすごくいいのがあったら悔しいなあ、と思いながら、どれにするか決めてるわけですが、こうやってオンラインもやってくれると、会場では観られなかったものも後からフォロー出来るので助かりますね。

さて、コンペの「2」はアニメーションを使って歴史や自分史を語ることが出来ることに気づいた人たちによる、いわゆる「アニメーション・ドキュメンタリー」というカテゴリーに相当する作品群でまとめられているのかな、と思います。なので、表現はさまざまですが、現実に根ざしたもの、それも重厚というか、ズシリとくる内容のものが多いわけですが、6作品のうち群を抜いて素晴らしいと思ったのはこちらでした。

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Flawing Home
監督: Sandra Desmazieres
2020年 / フランス、カナダ / 0:14:25

ベトナム戦争で生き別れになった姉妹の物語です。辛い話で、これも15分しかなかったとは思えないほど、大河ドラマを観終えたような感慨に打たれる作品ですね。なにより絵の密度に圧倒されます。これは最終日に外務大臣賞を受賞しました。

この回はねえ、途中から客席でスマホを見始めた人がいまして。映画祭で、それアリかよ!? 僕はほぼ一番うしろの席だったんで客席全体が見渡せるわけで、それが気になって仕方がなかった。で、このFlawing Homeの段になって、その携帯がもう消えないんですよ。こんなに真剣に語られた作品を目の当たりにしてなんでそんなことが出来るのか。まあ、空港内にある映画館という性格上、時間潰しで入ってきてしまった人だったのかもしれませんが、ついに堪忍袋の緒が切れて「携帯つけてる人、止めてくれる?」と大声で注意してしまった。ちょっとして消してくれましたけどね。気にせず作品を観ていた人にとっては僕の声の方がよっぽど迷惑だったかもしれない、作者にも悪かったなあ、と思ったりもしたんですが、翌日、多摩美で教えておられるアニメーション作家の野村辰寿さん(Eテレでやってた『ジャム・ザ・ハウスネイル』等を作られた方です)に「あれ、アツかったです」と言っていただいて、ちょっとホッとしました。野村さん、初対面だったんで、「なんでオレだと分かったんだ?」とびっくりしましたが(だって映画やってる間は暗いし)、近くに座っておられたんですね、きっと。

インターナショナルコンペティション4

このカテゴリーは何縛りだったんだっけ? なにかいろんなタイプの作品が混ざってたような。

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Night Bus
監督: Joe Hsieh
2020年 / 台湾 / 0:20:00

これは他にないタイプの作品で面白かった。「火曜サスペンス劇場」みたいな、ちょっとミステリー仕立てのドラマ(いささか説明過多ではありましたが)に猿の親子が絡んで、描写は、思わず笑ってしまうくらい残酷で。アジア的な美術は気持ちのいいものなんですが、人の動きはいかにもデジタルで作ってます、というような。こういうのってわざとなのか、技術的な制約の故なのか。最初はその動きがちょっとな〜って思ってたんだけど、話が面白いのでぐいぐい引き込まれちゃった。この監督は『チェリー・レイン7番地』も手伝ってると聞いて、あ、なるほどな、と。似た感触、あります。

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The Visit
監督: Morrie Tan
2021年 / シンガポール / 0:09:06

割と粗いフェルトを使った人形のアニメーションで、なんの罪かはわかりませんが、長いこと収監されてる父親とその娘の話。他の家族はもう無関心で、自分だけはその父親に面会に行かなきゃいけない主人公は、自分の方がよっぽど囚人だ、というストレスに苛まれてるんですね。わかりやすいメタファーとしていつも縞のTシャツを着ていたり。明るい話ではもちろんないんだけど、なにか語り口が悪くなかったな。

4日目(11/8)

本当は午前のプログラムを一つ観るつもりだったんだけど、仕事のメールのやりとりをしてたら出遅れてしまい、まあ、もう最終日だからどっしり構えようと、お土産物なんかの品定めをする午前。そしてこの日、唯一観たのが……

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今 敏 夢見る人
監督:パスカル=アレックス・ヴァンサン
2021年/日本・フランス/82分

このドキュメンタリー、パリにもうかれこれ30年住んでいる長年の友人がちょっと手伝ってたということもあって、楽しみにしてました。なにしろ出てくる『千年女優』や『東京ゴッドファーザーズ』のプロデューサーの真木太郎さん(『この世界の片隅に』もこの人だ)は僕が最初に勤めたレーザーディスクの会社の上司だし(その頃は『天地無用!』のOVAなんかを作ってました、私は)、押井守監督やマッドハウスの丸山正雄さんも番組でお世話になっていたりするので、なにか距離が近い。

僕は今監督ので最初に観たのが『東京ゴッドファーザーズ』だったと思うんだけど、もうまったく実写の作品を観ているような感じで、これアニメでやる必要あるんかいな?と思ったりしていた。そんな勘違いは『千年女優』や『パプリカ』を観ることですぐに払拭されたんだけど。『パプリカ』でCGを担当された加藤道哉さんをインタビューした時に、今監督の伝説をいろいろと教えてもらっていたこともあって、このドキュメンタリーで関係者の語るご本人のいろんな姿や暴挙にも少しは免疫が出来ていたわけだけど、頭に真木さんに「嫌なヤツ」と言われ、最後にも丸山さんにやっぱり「嫌なヤツ」と言われ(笑)、周囲の人たちは本当に大変な思いをしたんだろうなあ、と改めて。とは言え、面白いし、今さんの作品を振り返るにはもってこいだと思う。ただ『PERFECT BLUE』と『東京ゴッドファーザーズ』の引用フッテージの抜けの悪さがなんとも残念。ここらへん、まだリマスターされてないんだっけ? あと平沢進が出てこないのもちょっと残念でした。

夕方は閉会式になだれ込みました。授賞式のあとは、サッポロビール賞を獲った方からビールのおすそ分けをいただいたりして、作家のみなさんたちと乾杯。なんだか全員が知り合い同士みたいな感じで、和気あいあいとした雰囲気がとても良かったですね。

で、ラストスパートでナマ物(ホッケ!)等のお土産を買い込んで搭乗口に向かったら、15分遅れ、20分遅れ、最終的には40分遅れにまで……便が同じだった『骨噛み』の矢野ほなみさん(ここでも2冠!)と祝杯を酌み交わしつつ、出発を待つのでした。

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