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ドクターインタビュー 増田さやか医師 (まごころ診療所 愛知県名古屋市) 2022年春、岡崎市に診療所を開設します!

減薬をサポートする医師として、全国から様々な患者さんがコンタクトを希望している増田さやか医師。2022年4月に岡崎市内で精神科クリニックを開業予定です。減薬治療をスタートしてから8年あまり、増田医師は名古屋まごころ診療所の院長として3年勤務し、はじめから、病名をつけない、薬を出さない治療を続けてきました。
その一方で、減薬、断薬は、どうしても薬を処方しながらそれを減らしていく、というスタイルになるため、薬を出さない自由診療に限界を感じながら治療を続けてきたそうです。
開業しても、今現在、複数箇所で診ている方を中心に診療するため、新たな患者さんを受け入れるキャパは、あまりないとのことです。
しかしこれまで、電話相談で減断薬サポートをしていた方は、オンライン診療を取り入れ、処方もできるようになるとのこと。
今回は増田医師の最新の情報と、過去にお話をうかがった「減断薬という治療を選択することになった経緯」を掲載します。
今後、クリニック開業にむけてのお話もまた改めてインタビューしていきたいと思います。

向精神薬の減薬は、どのような場合でも慎重におこなったほうがよい


減断薬のサポートをする際、薬物動態(薬の相互作用、血中濃度など)で、Aという薬は、その人にとって効いていない、必要ないと判定したとします。

しかしながら、そのことは、「Aという薬を短期間で減らせる」「もともと効いていないのだから離脱症状は出ない」ということの根拠にはならない、ということです。

私も以前は、AとBという拮抗する薬が入っている場合は、両者をガンガン減らせる。血中濃度を測定できる薬剤では、有効血中濃度に達していなければ、短期間で減断薬できる。統合失調症ではないのに、誤診されて抗精神病薬が処方されているような場合は、短期間で減断薬できる。と考えていました。

しかし現在の私の感覚は、これが当てはまる人もいないわけではない。でも、ごくごくわずかだと思っています。

したがってこのようなケースでも、できるだけ慎重に、脳や身体が変化に付いていけるスピードが良いと思っています。

ベンゾジアゼピンの他の薬剤への置き換えは悲惨な結果になることが多い

ベンゾジアゼピンの離脱についてです。ベンゾジアゼピンの離脱症状が、多くの処方医が考えているより、ずっとキツいというのは、かなり周知されてきました。

ネット上で、ベンゾジアゼピンの減薬方法や、離脱症状体験談など、参考にしたいと思って調べると、たくさんの情報が得られます。

ただ、体験者の中でも、純粋なベンゾジアゼピンの離脱と、他の薬剤の離脱を混同している場合が多いので、過去の服薬歴を丁寧に見るようにしてください。

例を挙げると、メイラックス、セパゾンなどで離脱症状がひどかった、と書いている人の中には、最終形がメイラックスだった、というだけの人が、かなり含まれています。

例えば「その半年前に抗うつ薬を短期間で断薬した」「抗うつ薬は、スムーズに断薬できた」と書いてあったりします。いやいや、抗うつ薬の離脱は、とても遅れて出てくることがあります。抗精神病薬も同じです。

「メイラックスの離脱は、どんな感じだろう?」と思う人は、メイラックスを単体で飲んでいた人の記事を参考にしましょう。

ベンゾジアゼピン単体の離脱は、大したことない、と言いたいわけでは全くありませんので、注意深い減断薬をお願いします。

医師の中にはは、ベンゾジアゼピンの依存性しか知らない人もいます。

そのため、ベンゾジアゼピンの減断薬に、抗うつ薬、抗精神病薬、気分調整薬などで置き換える方法を採る人もいます。ほとんどが悲惨な結果になりますので、服薬をしている人、その周りの人が知識を持ちましょう。


子どもの減薬で、退院後に減薬を急ぐと再入院の危険が

子どもさんの減断薬を応援しているご家族、減断薬サポートしている専門家の方に、お伝えしたい内容です。
例えば、減薬中に状態がかなり不安定になって、入院治療が余儀なくされたとします。

そうすると、これまで長い月日をかけて慎重に減らしていた薬は、入院中に、あっけなく元の量に戻されたり、他の薬に一気に変えられたりします。

そのこと自体は、家族にも私にもどうにもならないので、諦めるしかありません。問題は退院後です。

入院中に、一気に増やされたクスリによって、ボーッとしていたり、アカシジアなどが出て落ち着かなかったりします。そうすると、家族としては、できるだけ早く入院前の薬の量に戻したい。明らかに薬が多い!と考えます。

でも、人の身体は、試験管ではありません。今飲んでいる薬が、今の状態を作っているわけではありません。薬の種類によって、どれくらい前の薬が現在に影響するか異なります。

わかりやすく言うと、Aという薬、入院前は0.5ミリまで減らせていたのに、入院中に15ミリになった(30倍!)。

家族は、退院後に5ミリくらいに一気に減らします。15ミリは明らかに多いので、まあそれは良しとしましょう。問題はその後です。5ミリにしても、まだボーッとしている。

まだまだ薬が多いのだ、と思い、焦ってガンガン減らす。そうすると、ほどなく再入院になる恐れが高いです。なぜなら、5ミリでボーッとしているのは、入院中のくすりの影響も大いに残っているからです。

大量のくすりからの減断薬の際は、段階ごとに、ステイ(保留)期間を設けてください。

○ーー私が減・断薬という治療をスタートしたわけーー○

抗うつ剤を疑い始めたことがきっかけ

月崎 以前は、精神科医として一般的な薬物治療を行っていた増田先生が減・断薬を中心とした治療にシフトするようになった経緯を教えてください。 
増田 最初のきっかけは今から8年ほど前のことになります。2013年の12月に、私は、内科医・プライマリーケア医のために、うつ病診療の講義をすることになりました。この講義は、製薬会社や医師会に対し私自身がやりたいと希望して行ったものです。精神科以外の医師に向けての講義をするために私は資料を集め始めました。

月崎 他の科にうつ病の薬を精神科医の立場から講義したんですね。

増田 私は以前から犯罪精神医学などにも関わっていましたので、この時も司法関係、犯罪白書などを中心に資料を集めることにしたのです。その資料集めの過程でいろいろ気付くことがあったのです。まず自殺者についてです。1998年に自殺者が3万人に上がり、それが下がらない状態が2011年ごろまで続いていました。精神科サイドからこれを見ると1999年は、ルボックス(SSRI)という 抗うつ薬が発売になった年です。そして1999年以降、新しいタイプの抗うつ薬が次々と出てきました。精神科・心療内科クリニックもかなり増えていったのです。気軽にかかれる医療機関も増え、新しい薬も使えるようになった。しかしうつ病の患者さんは増える一方だったわけです。この状況を講義のためのデータ資料として改めて見た時私は、「自分が処方している抗うつ薬が少しも患者さんを助けていないのではないか」と考え始めたのです。そして抗うつ薬を疑ってみるべきと感じました。

病気そのものではなく薬が作り出す症状がある

月崎 どんな疑いをもったということでしょうか?

増田 私はもともと薬物中心の医療には抵抗がありました。しかし統合失調症については、薬物治療は不可欠だろうと考えていましたし、うつ病、躁うつ病などの気分障害についても、全く薬物に頼らない治療は難しいだろうと何となく思っていたのです。

しかしこの時に資料を集めてみて、自分の中で色々なことの辻褄があった気がしたのです。例えば私が医者になった1980年代後半には躁うつ病はめずらしい病気だったことを思い出しました。今はうつ病の人の5人に1人が躁うつ病の可能性があるといいますが、この変化はなぜだろう?

躁うつ病の増加は、抗うつ薬の副作用なのではないか?と考え始めました。また、うつ病の人たちは、「未熟で自己中心的ですぐ状況に反応してしまう傾向がある」とされているけれど、これは病気そのものの特性ではなく、薬の影響ではないかと思い始めたのです。このため、まず気分障害の人、うつ病、躁うつ病の人に対して薬を見直す必要性を感じました。

厚生労働省の規制とタイミングがあい減薬を試み始めた

月崎 疑問を感じて、いつごろ具体的にはどのように減薬に取り組むことにしたのでしょうか?

増田 2016年の春ですね。厚生労働省が多剤処方を2016年の10月から制限することを発表しました。それでその半年前の4月に医療機関には厚労省から通達が来て、4月から6ヶ月間かけて、10月までに患者さんの薬を減らしなさいということでした。
 
この厚労省の通達は、減薬に取り組んでみようと考えていた私にとって「渡りに船」でした。それがなければ、もし私が減薬を提案しても、「薬を変えたくない」という患者さんが多数だったと思うのです。

しかし、この通達のおかげで、長く通っていて薬に頼っているような患者さんにも、「これから国の決まりで出せなくなるのよ、急になくなるより、少しずつ準備したほうがいいでしょ」とか、「年を取ると肝臓と腎臓に負担がかかるから少しずつ減らしていきましょう」とか、一人ひとりに伝えやすい方法を考え、減薬の話を提案していきました。

その結果「絶対減らさないで」という人が外来ではたった1人(80歳の解離性遁走で行方不明になる症状のある患者さん1例)しかいませんでした。外来の患者さん100数十人、病棟に入院していた患者さんも全員、半年間の間に、本当に少しずつでも全員の減薬を実現しました。

月崎 厚労省の方針と一致したとはいえ、現場でそれだけの人数の方に減薬を実行したのは大変な決断とエネルギーでしたね。

増田 はい。大きな決断でした。そして、時間をかけて丁寧にやれば減薬ができるということがはっきりとわかったのです。それが納得できたのと同時に、私はもっと早く薬の問題に気付いていたら・・・と思いました。

「あの人を死に至らせないですんだかもしれない」と思う人が走馬灯のように浮かんで来たのです。自殺だけではなく、ある朝家族がみたら呼吸停止していたという突然死や急性肝炎など、薬の影響だったと考えられる患者さんのことがたくさん思い出されました。

そしてこの事実を認識した以上、私は医師として、減薬はやらなければいけない重大な仕事だと感じるようになったのです。

「先生の患者さんは看たくありません」と拒否する看護師

月崎 先生が勤務していた精神病院の院内では、その減薬に関する考えは受け入れられたのですか?

増田 いえいえ、もう毎日が苦しくてたまらない状態でした。病院の中では、「副作用が出ていようと薬は飲まなければならない「拒薬したら無理にでも服薬させる。あるいは注射する」といった状況が当たり前にありました。
薬を信じていたころの自分は、今思うと恐ろしいことに、この「どうしても薬を飲ませる」といった治療にそれほどの抵抗を感じなかったのです。
しかし薬についての考え方を改めた私にとって、そこにいることはそれだけで本当に苦痛でした。

看護師たちからは薬を減らす治療を行う私に反発があり、「先生の患者さんは看たくありません」と言われ、結局病棟担当も外されました。

月崎 院内で凄まじい抵抗にあったということですね

増田 はい。それで週3日は自分の外来患者の診察をし、残りの2日は、薬診という薬を出すだけの診察を担当することになりました。

薬診では、自分の担当でない患者さんからの相談を受けていましたが、「主治医より話を聞いてくれる」とよく言われました。また外来診療で嫌だったのは、隣の診察室から「薬を勝手に減らしたら入院させるよ!」などと威圧するような声が聞こえてくることでした。

結局、精神科医として働き口がなくてもかまわない!という覚悟で精神病院を飛び出しました。

月崎  薬の問題を知ってからどんなことが変わっていったのでしょうか?

増田 実は、私の精神科医としての姿勢は、薬の意識以外の部分はそんなに変わっていないと思うのです。例えばもし10年前にインタビューをされても私は「良い先生」とは言われたと思うんです。「ちゃんと話を聞いてくれるし、時間外にも診てくれる」などの意味で。

しかし当時の私の治療で回復する患者さんはほぼいなかったんです。薬を信じるか信じないか、という違いだけで、私にとっての治療の意味は、大きく変わりました。

以前は「精神障害」というものがあり、それが遺伝なり、環境なりによってその人を捉えてしまう。だからそれを治療する必要があると思っていました。
しかし、薬を使う必要がないという事は、病気がその人を捉えるのではないと思えるということです。今私は少なくとも慢性の精神障害はないと考えています。減薬について考えていくうちに、このことは単に薬を使うか使わないかではなくなってきたのです。

「薬を使わない治療」にはいろんな認識レベルがある

月崎 最近は減薬はやや流行している感じもあり「薬をあまりつかわない」ということをうたっているクリニックも増えていますね。

増田 ええ。3つくらいに分けられると思います。

1 多剤大量処方はよくない。
2 不必要に薬を出さない。
3 ごく一部の必要な人には必要だけど基本、薬は不要なものである。

増田 私はこの3にあたります。私は薬がすべて悪だとは思っていません。激しい自傷行為、他害行為を止めるには薬が必要な時があると思っています。
例えば激しい興奮状態の患者さんがいるとします。その方一人を安全で安心できる温かな環境で、24時間交代で見守ることができればいいのです。   
それを可能にするマンパワーと場があれば薬はいらないかもしれません。しかしそのような環境を整えることは今のところ難しいので、現実的な対応としてその時は速やかに鎮静する薬が必要なのかもしれないと思います。

一方このような激しい自傷他害行為などではない患者さんの場合には、薬の治療はもっと限局的でいいと考えています。ほかの自然療法もあるし、生活習慣の改善の提案もあるし治療法が薬である必要性はないと思っています。
本当に精神医療が必要な人は、1つの県に1つ公立病院があれば事足りるくらいではないかなと。そこは予防的センター的な機能も含め、治療期間も本当に短いものでいいと思うのです。

国が定めた診療システムが、患者さんの治療に与える影響

月崎 精神科では初診から、精神病の診断名がつき強い薬が処方されることが多いですが、これって大丈夫なのでしょうか?

増田 そうですね。初診から統合失調症の診断名がつくような場合がありますが、これには保険診療のシステムにその原因があります。

月崎 
そうなのですか?純粋にそう診断されるんじゃないのですか?

増田 以前は精神科を受診して診断を確定できない場合には「精神衰弱」という暫定病名を付ける事ができたのです。例えば、幻覚妄想状態、ひきこもり、うつ状態などの精神的変調をきたしたような状態を全部総称し、一過性のものも含む、仮の病名としての「神経衰弱」という診断名です。
月崎 つまり間があったということですね。判断を保留にすることを許す間。不確実性に耐える力というか。

増田 この診断名が保険診療上でも使えたのです。「神経衰弱」という仮の診断名をつけて、ごく弱い薬で経過を見ることや、薬を出さずに経過を診ること、また、抗うつ薬や抗精神病薬を使って様子を診ることができたのです。ところが平成10年(1998年)ごろに「精神衰弱」という病名を使ってはならないとルールが変わったのです。 

この変更により、心因反応、ストレスフルな出来事、神経症、不適応などの症状を訴えてクリニックを受診する患者さんに対し、これらの病名で抗うつ薬や抗精神病薬を出す事はできない。抗精神病薬は統合失調症という病名、抗うつ薬はうつ病がつかないと処方できなくなりました。

診察の結果、今この患者さんには抗うつ薬が必要と判断すると、統合失調症の可能性があっても診断名はうつ病とつけなければならないなど、おかしな事がいっぱい出て来てしまうわけです。

月崎 ’98年ころまでは暫定的な診断名をつけて様子を見ることができたんで
すね。

増田 ええ以前のように「精神衰弱」のような暫定病名が使えると、医師が経過を観察しながら、その時必要な薬をきめ細かく使えるのだけれど、診断名と処方薬が、ほぼ一対一対応のようにマニュアル化されることになり、その結果として最初から診断名を決定しなければ薬が出せなくなったのです。また保険診療を使う限り、診断名をつけないと、精神療法を行うこともできないのです。例えば、忙しすぎて自律神経が乱れているだけといった場合に、自律神経は身体の疾患なのでこれでは精神療法の診療報酬が取れないのです。

月崎 ああ、精神療法も診断名をつけて薬を処方することとセットになったんですね。

増田 精神科で診察を受けているなら、精神科の病名が事務上も必要なのです。初診で30分以上面接をする診療報酬を確保するためには最初から精神科病名を付けないといけないというルールがあります。それは、あくまでレセプトの為の病名であり、暫定診断であるはずなのです。しかし暫定診断でつけた診断が後々までついて行く事が非常に増えたのです。一度、決定打の病名が付くと、その後主治医が変わっても、その診断を別の医師が覆すことはしないことが多いです。

月崎 ああ、なるほど。それで本人が知らない病名がカルテ開示するとあったりするのですね。

薬のデメリットと限界を患者に伝えること

月崎  では診療で薬をできるだけ処方しない場合にはどのような診察になるのでしょう。
増田  以前の私の診察は、一生懸命その方の話を聞いてあげて、「理解はできますよ、あなたはきっと過敏だから、重く受け止めたんですね。うつ病ではないけれど、うつ状態だから、薬を飲むと楽になるかもしれない」と言って、抗うつ剤を出してきました。

月崎 今はほとんど処方しないのですか?

増田 今は、お話を聞いて「自然な反応ですよ。その影響がたまたま精神に出ただけです。ストレスで胃が痛くなる人、下痢をする人となんら変わらない。身体の症状に出てくる人と同じ様に精神の面に出ているだけですよ」とまず言い、精神に異常をきたしたと捉える必要はないと話します。そして「薬があなたを最終的に救うということはないんです。でももし今あなたがそれを最も有効な手段だと考えるのであれば、薬を出さない事はありません」と話して「お薬が助けになります」という表現をなるべくしないようにしてきました。

月崎 その対応で、先生は何もしてくれないという患者さんはいないのですか?

増田 
はい。その代わりに私は他のいろんなことを提案します。食生活や生活の改善、すぐにはモノの考え方は変わらないかもしれないけど、私のところにきて吐き出す事、どのように考え方を変えて行くかを一緒に考えたりします。鍼、アロマ、運動など、他に提案できることを紙に書き出して、「あなたがこれはと思うのを1つやってきてみてください」ということもあります。
 休養だけを勧めることもあります。私が「薬はよいものではありません」と言ってそこで関係が終わる人は1人もいません。
 
いろんな人が来ますよ。嫁姑問題、子どもの悩み、夫婦関係、仕事の悩み、いずれもまず吐き出す場所が必要なんです。 

私は自己治癒力を引き出す自然療法を優先するけれど、何が何でも薬を使わないというわけではありません。私の話を聞いて「ぜひとも薬を」と希望する人は多くないです。精神科医は「患者さんが薬を欲しがるから出すのだ」と言いますが、あれは間違いです。
薬の副作用、依存性、耐性、離脱症状、後遺症など薬に関する情報を詳しく伝えずに処方するから、患者さんが薬に頼ろうとするのだと思います。

月崎 先生は診察ではまず患者さんのどのような部分に着目するのですか?

患者さんのなりたい姿を一緒に考え探すこと


月崎 減薬をしたい場合、患者さんにはどんな意識が必要なのでしょう。

増田 まずは患者さんが、今自分の服薬している薬について知ることですね。私は以前から患者さんに服薬管理シートのようなものを渡していました。
自分の飲んでいる薬について主治医や薬剤師に質問してみましょうというような内容のシートです。それは服用時間の確認、飲み忘れの防止、副作用確認など、服薬を守ってもらうのが目的のものでした。
現在は、減薬したい人にとってまったく同じシートが減薬の管理を助ける意味で役に立つと思っています。減薬では薬の飲み心地や飲み方を自分で記録して医師に減薬を相談することがとても大切です。

月崎 計画表を作ったりはするのでしょうか

患者さんのタイプによっては減薬計画表を作る場合もあります。これは減薬の経過をみていく中で、当然計画の見直しなどの調整を含みます。減薬するスピードにより影響が出た場合は、しばらく減薬を中断し、薬の量を変えずにしばらく経過を見ることもあります。

その人の周囲の環境や性格をみながら治療のゴールをどこに置くのかを考えていきます。

月崎 多剤処方を整理していく場合に何かノウハウやルールのような物はありますか?

増田 私の中でルールはないです。自分が長年診察してきて、私自身が薬を処方してきた患者さんはその経緯がわかります。別の医師が治療して来た場合でも、例えば抗精神病薬が3剤入るには、それなりに処方しなければならなかった事情があるはずなのですね。だから処方だけを見て、どの薬をどのように減薬するかは決められないです。やはりその方に会って、顔を見て話を聞いてそれからサポートをしないと、その人のなりたい自分や、不都合に感じていることをイメージした上でないと、薬の整理の方法は決められないですね。

月崎 向精神薬の減薬をスタートする時には他にどんなことに注意が必要でしょうか?

増田 体質や季節、ライフイベントなどを考え、体調や気分の変化の予測などを計画の中に組み込むことですね。薬によっては数ヶ月後に離脱症状のピークが来るので、先を予測しながら計画します。苦手な季節は、それぞれ違います。その方とよく話し合いいいタイミングを一緒に選ぶことも大事ですね。

月崎 離脱症状についてはどのように考えていますか?

増田  離脱症状は「薬を飲まなくても私は大丈夫なのか」という不安からきている部分があると思います。自分にはもう薬は要らないと思ったら離脱は少ない傾向があります。

また薬や精神科医療に対する患者さん自身、場合によっては家族の感情も、離脱症状に影響しています。

患者さんがきちんと説明を受けて薬を飲み、副作用を訴えたら受け止めてもらえるという治療関係の中で飲んで来た薬と、まったく話を聞いてもらえず薬ばかり増えたと感じている場合とでは、減薬時の離脱症状に差が出やすいです。
とても不思議ですが、思いが違うだけでそんなに違いがでます。もうすぐ自分には薬が不要になると信じているからこそ、「今日自分はこの薬に助けられている。薬が手元にあることをありがとうと思って飲もうね」と患者さんには話しています。

月崎 減薬という治療に医師として手応えを感じますか?

増田 はい。でも減薬とは、単純に薬を減らすということだけじゃないとわかってきました。それは、薬を飲み始めたその時に直面していた問題に、薬を減らしていくことで再び直面することになるということです。

例えば受験の失敗や失恋などいろいろな問題があるわけですが、それがすでに過去の問題として処理できる場合と、もっと根深い問題である場合もあります。また、薬をどうとらえるか、精神科医療をどうとらえるかという問題もあります。この間患者さんに言われて気付いたけれど、「先生が薬を減らしましょうねと言う時に、薬は毒だから飲んじゃいけないとは先生は一言もいわないのね」といわれました。

月崎 まごころ診療所はどんな場なのでしょう?

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増田 自由診療のクリニックで、保険診療はしていません。全予約制で料金は自由診療で60分間9000円です。処方薬(漢方薬を含む)の処方はできません。
患者さんには従来の医療機関で行われることのイメージを一旦手放してもらう感じですね。病名をつけることやその原因を何か一つのもの(ストレス、疲労、老化、更年期、ホルモンバランス、性格など)であると端的に捉えることもしませんし、疾患に対する標準的治療は行ないません。
薬は処方しませんが、アロマオイルやハーブやサプリメントをご紹介することや食生活や生活リズム、運動などに関する助言などをします。
回復する力は患者さんの中にあるということをわかっていただくことが大切と考えています。セカンドオピニオンとして薬物治療に関する相談は受けることができますが、治療に関して介入することはできません。

月崎 いろいろお聞きしました。ありがとうございました。

増田さやか 
まごころ診療所院長 こころのクリニック西尾勤務
1961年鹿児島県出身
奈良医科大学卒業








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月崎時央 編集
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