名曲「ぜんぶ」をめぐるお話
きっかけは、先述した屋久島での公演。
学校からのリクエスト
混声4名、アカペラアンサンブルのリノアが、屋久島の中央中学校で公演することになったということで、ご担当のM先生とは何度も打合せを重ねました。
その中で学校からのリクエスト曲として挙げられたのは、「ぜんぶ」。
現代日本の合唱界に燦然と輝く名曲。ご存知の方も多いのでは。さくらももこ作詩・相澤直人作曲のあの「ぜんぶ」です。聞けば、3年生がピアノ伴奏つきバージョンの同曲を歌ったことがあるということで、「ぜひこの機会にオリジナルである無伴奏混声版を聴きたい!とのリクエストでした。
4人では歌えないのです
さて困りました。歌った経験がある方はお分かりと思いますが、オリジナルの同曲は混声4名では歌えないのです。混声4部合唱ですがアルトとテノールとバスが部分的にdiv.すなわち2声に分かれるのです。なので最小でもS1A2T2B2の7人が必要なのですね。
私「先生、あの曲は実は我々4人では成立しないんですよ…」
先生「ええー!そうなんですか…残念だなぁ、子どもたちも大好きな曲だから、オリジナル版を聴いてみたかったんですが…。どうにかなりませんかねぇ。」
うーん…
またとないこの機会、ご希望には応えたい、しかし無理やり4人で歌えば作品に対して不誠実なことになる。
何か解決策はないだろうか…
無い知恵を振り絞って出した我々リノアの答えは、
「今回限りで4声で歌う許可を頂けないか、作曲者である相澤直人先生にご相談しよう!」でした。
まさかの展開!
相澤直人先生には、鹿児島県合唱連盟の講習企画である「コーラス・アカデミー」などを通じてこれまでに幾つもの学びを頂いていたので、恐れ多くも僅かばかりの面識がございました。作曲家に直接問い合わせができる現代に感謝ですね。
突然の、しかも失礼にも当たるご相談にも関わらず、丁寧にお話を聞いて下さった相澤先生。我々としては、リクエストの経緯や学校の思いをお伝えして、何とか今回に限り4人での演奏をお許し頂けたら…という思いでしたが、思いがけないお返事が。
「4人で歌える編曲を施しましょう!」
???
え?
本当に驚きました。リノアのLINEグループがかつてない騒ぎになったことは言うまでもありません。
あまりに光栄なお話に大喜びして、我々はあの名曲「ぜんぶ」の無伴奏混声4重唱版の初演を務めることになったのです。
大喜びしかなかった
そして迎えた初演のとき。
公演のアンコール曲としての演奏。我々も生徒の皆さんも、一番高揚しているような時間。MCで皆さんに伝えました。
「なんと!今日のこの日のために、相澤先生が4声版を書き下ろしてくださいました!それを!今から!初演します!(多分このくらいのテンションだったと思う)」
それを聴いた生徒たちからも歓声が!
(相澤先生の合唱指導動画をみんなで見たことがあるらしく、先生のことをよく知っていたのですね。「あの相澤先生が!私たちのために!あの「ぜんぶ」を!キャーッ!てな具合でした。)
出来は自分たちでは判断できませんが、大切に演奏致しました。
そして生徒の皆さんも、先生方もとても喜んで聴いてくれました。
あの瞬間、あの体育館は、大きな喜びだけに満ちていました。
そんな場で、無事に初演しましたことをここに記しておきます。
家宝にしようか
初演後、相澤先生のYouTubeの中で4声版が生まれたことの発表があり、先日、音楽之友社のマガジン「教育音楽 中学・高校版2024.1月号」の別冊付録として、出版されました。
「混声4重唱(または合唱)のための ぜんぶ」。
音楽之友社からのお心遣いで、我々4人は献本を頂きました。初演データの記載を見て、しみじみと感激している年末です。額に入れて飾ろうかしら。いえいえ、これからもリノアの代表曲として歌い続けますとも。
(この出版を待って、情報を解禁したのでした。この間もう自慢したくてしょうがなかった笑。)
この動画の中で、発表がありました↓↓
名曲、さらに羽ばたく
相澤先生が仰っていたように、このバージョンの誕生を喜ぶ方々が多くおられると思うのです。私の合唱団でもきっとそう。たくさんの方の声に歌われ、たくさんの方の耳に届きますように。
この名曲が新たな羽ばたきを見せるきっかけになれたことを、きっと私はこの先もずっと喜んでいると思います。
(もしもあなたに自慢してきたら、一回は聞いてあげてください笑。)
相澤直人先生、音楽之友社の方々、そしてきっかけとなった屋久島町立中央中学校の皆さんやかごしまアートネットワークの皆さまにも、心より御礼申し上げます。