見出し画像

ニューヨークと日本を繋ぐ思い出の味

今回のテーマ:ストリートベンダー

by 茂山 薫子

 ニューヨークの街を歩いているとあちこちで屋台を見かける。いわゆるストリート・ベンダーだ。売っているものはホットドッグやプレッツェル・ドーナツなどの軽食やコーヒーなどが多いが、ケバブやタコスなどもあり通りを歩いているだけで多国籍なメニューに出会えるのも移民の街ニューヨークらしい。そんな数ある屋台の中でも私の1番のお気に入りは「nuts 4 nuts」だ。

 街角でぷんと甘い香りをさせてくるnuts4nuts。ナッツの周りに特製の糖衣がついた香ばしいお菓子だ。ピーナッツ・アーモンド・カシューナッツ・ココナッツなどが定番で1種類だと1袋4ドル、全種類入ったミックスだと5ドルだ。屋台に備え付けられた銅製の鍋でナッツとお砂糖をガシャガシャと混ぜる。香ばしくて甘い香りはお財布の紐をつい緩ませるし、実際外食が20ドルを超えるのが当たり前のニューヨークで気軽に買えるおやつとしてお財布にも優しい。手のひらサイズでポケットに入るサイズの袋に無造作に入れられたナッツはまだ熱くて、冬のかじかんだ指先を温めてくれるところも気に入っている。袋は小さいがナッツのコクと糖衣の甘味でだいたい半分も食べるとお腹がいっぱいになるので、家に帰って夜食がわりに残りを食べる。とってもコスパがいい。

 「ルコちゃん、ニューヨークに行ったら絶対食べてみて!」そう言ってnuts4nutsを教えてくれたのはTacさん。日本にいた頃、会社をまたいで一緒に仕事をした戦友であり、悩みも嬉しい報告もなんでも気軽に話せるお兄さんのような存在であり、ニューヨークに住み自分の道を切り拓いていた、という点では大先輩だ。Tacさんはニューヨークの大学で勉強するために90年代に渡米、その後アパレル関連のビジネスを立ち上げノリータに店を構えた。失敗したこともあったそうだが、その時に応援し支えてくれた人を今でも尊敬していて、会話の端々で感謝の言葉を口にする。そんなTacさん自身も面倒見がよくて人が大好き。今は日本でビジネスをしているが社長にも関わらず全然奢らないし、人情味溢れる人柄に学生から大企業の重鎮まで、年代も性格も様々な人が惹かれてついて来る。私が「ニューヨークに行く」と報告をした時に誰よりも全力で応援し前向きに送り出してくれたのもTacさんだ。

 そんなTacさんがある時、nuts4nutsをお薦めしてきた。学生時代の思い出の食べ物らしく、アメリカで2番目に好きな食べ物だそう。「そんなTacさんのお薦めなら」と食べてみたら、食べたことのない美味しさでまんまとハマってしまった。そして何より、渡米して2ヶ月ほど、まだ現地の友達も少なく「思ったよりN Yの街は汚いぞ」「そんなに甘いことばかりでもないぞ」と旅行気分から現実が目に入り始めた私にとって、日本のお兄さん的存在のTacさんをふっと思い出せるnuts4nutsのワゴンを街中で目にすることは心温まる瞬間であり、救われたのを覚えている。

 美味しかった、と報告をすると私以上に大興奮のTacさんは「お薦めしておいて変な話だけどめちゃくちゃ嫉妬!」と返してきた。本当に大好きなので、そのあと話題が移った後も会話の端々でnuts4nutsを羨ましがった。日本に帰るときにお土産で買って帰る、と言うと「いいよ、気を遣わなくて。届いた時にはベトベトになっちゃうじゃん!」と遠慮しながらも「いいなぁ。本当に羨ましい」と言い続けるのだった。

 でもTacさん。時代は21世紀ですよ。アメリカではこんなもの↓が手に入ります。

https://shop.nuts4nuts.com/collections/party-packs

 屋台の熱々よりは風味が落ちるかもしれないけど、次に日本で会う時に絶対持って帰るね。

 でも120%驚いて200%大喜びするに違いないので、そのリアクションを見るまで、本人にはまだ内緒。

プロフィール:
茂山薫子 東京暮らし33年。それなりに学校に行きそれなりに社会人をしてそれなりに幸せだったけど、幼少期からの夢があきらめきれず急に渡米。自分も周りもまだ驚きが冷めやらぬ中、日々ニューヨークの楽しさと厳しさを噛み締めながらマンハッタンの片隅で生息中。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?