見出し画像

いい湯だな♪

今回のテーマ:ニューヨークにないもの

by  らうす・こんぶ

ニューヨークにいるときはしばしば「いつまでニューヨークにいるの?」、「いつ帰国するの?」などと聞かれたものだった。その度に、「和菓子とぬか漬けと体育座りして入れるお風呂がキョーレツに恋しくなったとき」というような答え方をしていた。

ニューヨークでも今ではお金さえ払えばおいしい和食が食べられるし、日本食材もかなり手に入るようになった。それでも、おいしい和菓子とぬか漬けと体育座りして入れるお風呂だけはなかなか手に入らなかった。

和菓子、売ってるよ。冷凍のなら。漬物も売ってるよ。着色料と保存料がたっぷり入っているようなものなら。でも、ぬか漬けはニューヨークのスーパーでは見たことがなかった。

私が食べたかったのは商店街の和菓子屋さんで売ってるようなお団子とかおまんじゅうとか大福とか、そういう素朴な、そして添加物があまり入っていない和菓子だった。

私は長年ゆとりのない生活をしていたが、健康にだけは留意していて、外食をしない代わりに食材はケチらなかった。よく知られているようにアメリカの医療費はバカ高い。生活習慣病にならないように適度な運動を心がけ、ストレスは絶対にためないようにし、睡眠時間は決して削らず、食べ物は多少高くてもオーガニックのものや農薬、ホルモン剤などをあまり使わずに栽培、飼育された野菜や肉類などを食べるようにしていた。

そういう生活を20年も続けていたおかげで舌が添加物に敏感になってしまい、添加物が大量に入ったものは受け付けなくなってしまった。冷凍で輸入される和菓子だけでなく袋入りのせんべいやおかきなども、むかしはおいしいと思っていたのに、今は食べてしばらくしすると口の中が気持ち悪くなるから食べたいと思わなくなった。やっぱりいろいろ入っているんだろうな…。あんこが食べたいときは、少し価格が高めの缶詰の茹で小豆を買っていた。これならおいしく食べられた。

だから、おいしい和菓子やぬか漬けを食べたいという欲求が年ごとに高まっていて、その欲求がいつ飽和点に達するかは時間の問題だった。

そしてお風呂。浅くてすぐにお湯が冷めてしまう洋風バスタブが嫌いだった。ゆっくり体を温められないお風呂には入る意味がないので、アパートではシャワーばかり使っていた。また、ジムにはサウナはあってもお風呂はなかった。たっぷりお湯をはれる深めの浴槽の中で体育座りして肩までぬくぬく温まりたいと、どんなに思ったことか。

そして、帰国後。

スーパーでダイコン、ニンジン、キュウリのぬか漬け1パック198円を見たときは心の中で狂喜乱舞した。食べ物の嗜好が変わってしまったのか、最近はあまり甘いものを食べたいと思わなくなったので、商店街の和菓子屋さんにはまだ行ってないが、そこに和菓子屋さんがあるというだけで幸せだ。

今は、アパートのお風呂でもジムのジャグジーでも体育座りして温まれる。週末1泊で温泉に行くこともできるし、なんなら秩父の温泉に日帰りで行くことだってできる。

ニューヨークにはおいしい和菓子、おいしいぬか漬け、気持ちよく入れるお風呂、さらには温泉がなかった。これらがいつでも簡単に手に入ると思うだけでも、私のQuality of Lifeはぐっと上がったような気がするのだ。

東京での生活に慣れてきたら、今度は反対に、ニューヨークにはあれがあったのに東京にはこれがない、あれもないと言い始めると思うけれど。


らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

らうす・こんぶのnote: 

昼間でも聴ける深夜放送"KombuRadio"
「ことば」、「農業」、「これからの生き方」をテーマとしたカジュアルに考えを交換し合うためのプラットフォームです。




いいなと思ったら応援しよう!