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乗車券はいずこ?
今回のテーマ:ニューヨークにないもの
by 福島 千里
毎回楽しみにしている日本への一時帰国。けれども、たまの帰省時に地下鉄や電車に乗ると、とまどうことがひとつ。それは毎度のように下車時の乗車券探しでプチ・パニックに陥ってしまうことだ。
ニューヨークの地下鉄では、乗車券が必要になるのは乗車前の改札通過時だけだ。料金は一律2ドル75セント(2021年10月23日現在)。どこまで行っても運賃は同じだから、降車時にメトロカードを出す必要がない(ただし例外もある。街の中心地からから遠く離れた空港へ続く路線に乗り換える場合は、追加料金精算のため、改めてメトロカードを改札機に通さねばならない)。
マンハッタンから出発する郊外列車(メトロノース)はどうだろう。こちらも日本とは状況が少し違っていて、乗車券は列車が動き出してから車両を巡回する車掌さんが確認しにやってくる。その際、乗車券は回収され、代わりに「乗車券確認済み」らしき紙切れが座っている座席上部に挟みこまれる。一度これを終えてしまえば、その後、降車時に乗車券を求められることはない。
おそらくこのシステムはニューヨークに限ったことではないと思うのだが、少なくともこの街では、下車時に乗客が乗車券提示に備えなければいけないということはないのだ。
そんなわけで、私の体には「乗車券は乗車前の改札口通過時に準備すればあとはオッケー」というのがすっかり染みついてしまっている。一度身についた習慣というのはすぐには直せない。だから、たまに帰国して東京あたりの地下鉄に乗ったりすると、必ずやらかしてしまうのだ。
「え、切符!? どこにしまったっけ?💦」
改札口を出る直前、乗車券をどこにしまったか即座に思い出せない。両脇を次々とすり抜けていく他の乗客たちをよそに、自分1人が改札機の前に立ち尽くし、ジーンズのポケットやバッグの中に手を突っ込みながら汗だくになる。混雑時でなければまだよいが、ラッシュ時などはたまったものではない。後続の乗客たちがわんさといる時は、これが結構なプレッシャーになるし、なにより先を急ぐみなさんに申し訳ない気分でいっぱいになる。
「すみません、お先にどうぞ」
とりあえず、人の波から離れて改札口の端っこでもたもたしていると、今度は改札員さんの静かな視線がチクリと刺さる。いえ、無賃乗車じゃないです。持ってます。乗車券持ってます。心の中でそう弁明しつつ、なんとか切符を探り当てて改札を出るのだ(こういった場合、切符はだいたい無意識にジーンズやジャケットのポケットの中に突っ込んでしまっているので、まもなくことなきを得る。けれども、いざ切符が必要となった時になぜか財布などを真っ先に確認してしまうので、プチ・パニックに陥るのだ)。
長く日本を離れていると、ニューヨークとのシステムの違いでしばしばこんな風にとまどうことが起きる。あぁ、次に帰国する時も、きっと同じことやらかすんだろうな。
📷トップの写真はニューヨーク地下鉄の乗車券(メトロカード)
◆◆福島千里(ふくしま・ちさと)◆◆
1998年渡米。ライター&フォトグラファー。ニューヨーク州立大学写真科卒業後、「地球の歩き方ニューヨーク」など、ガイドブック各種で活動中。10年間のニューヨーク生活の後、都市とのほどよい距離感を求め燐州ニュージャージーへ。趣味は旅と料理と食べ歩き。園芸好きの夫と猫2匹暮らし