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NYリレー小説プロジェクト

マイキーとイーストヴィレッジの住人たち 第8話(リレー小説・有料編)第八走者: 萩原久代

第一話から読む

リサはチヨのことが心配だった。しかし、チヨの大きな声がドア越しに、または天井の空間を超えて他の階まで聞こえるなんて、あり得ないとリサは思っていた。彼女が差入れを持参してドアの前に立って耳を澄ました際、チヨの話す声が何回か聞こえただけだった。それが、何故、こんな変な噂になったのか、リサは理解に苦しんだ。



チヨのアパートをホセと一緒に訪ねてから3日ほど経ち、リサは学校に行く前にチヨのアパートを訪ねた。ドアの前に立って耳を澄ませたが、何も聞こえなかった。ホッとして、ドアチャイムを押した。すぐに
「あら、リサ、朝からどうしたの?」
と言いながらチヨがドアを開けた。
「チヨ、変な噂は気にしないで。そんな噂はすぐみんな飽きるからね」
リサは自らを力づけるように言った。
「リサ、心配しないで大丈夫よ。私はここのコープの古株で、管理組合メンバーもみんな昔からの馴染みの人たちよ。私が大声出す迷惑な人だなんていう噂は根も葉もない話と知ってるわ。さあさあ、学校の授業に遅れるわよ、行ってらっしゃい!」

チヨはニコニコしてリサを見送った。チヨは、ホセが管理人の仕事上、”苦情”の原因のアパートにヒアリングに来ただけだと知っている。彼にはそれ以上の権限はない。実際に苦情で対応が必要になるような案件は、管理組合が対応する。チヨは、1970年代からマイケルと家族と一緒にこの建物に住んできたから、誰よりもこの建物の管理運営形態、歴史、住人の変遷を知っている。
ただ、今回の噂はチヨにとってヒヤヒヤものだった。マイキーに餌を与えていることが知れたら、建物とその周辺の衛生上の問題だという話に発展して、ネズミ駆除対策が始まりかねない。チヨはこの件については最注意が必要で、絶対に他者に知られてはならないと肝に銘じた。



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