BEHIND THE MASK
今回のテーマ:マスク
題名:BEHIND THE MASK
マイケル・ジャクソンが他界して13年が過ぎた。キング・オブ・ポップの名を欲しいままにしたスーパースターの仮面の下の素顔は、生前から謎に包まれている。我々はマスクの裏側を誰も知らない。
マイケルの死後、未発表曲アルバムに収録された「ビハインド・ザ・マスク」は日本が世界に誇るテクノバンド、YMO(イエローマジックオーケストラ)のオリジナル曲だが、マイケルのカバーは1982年に録音されたものの版権の問題でお蔵入りになっていた楽曲だった。2009年に日の目を見るまで、封印されていたわけだが、歌詞にも出てくるように人は誰もが、「マスクの裏で佇み、(君は)世界をコントロールする(You sit behind the mask And you control your world)」。マイケルも仮面の向こう側で自分自身を守っていたのだと思う。
同曲はエリック・クラプトンもカバーしており、その点においてもYMOがいかに世界的に影響力を持っていたアーティストなのかを計り知ることができる。
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さて仮面のマスクはさておいて、医療マスクの話をしよう。こちらは打って変わって、どこに存在するかわからない感染者の飛沫やウイルスを防ぐ効果があり、一昔前のアメリカでは信じられないことだが、今では一般人が当たり前に着用するようになった。最近は規制が緩和され、ニューヨークは地下鉄だと半々くらい、外やレストラン、ライブコンサートだと、マスク着用者はぐんと減った。
マスクは花粉症者には必須アイテムだし、マスクによってインフルエンザの感染も激減したというから、マスクさまさまだと思う。個人的には寝る時にマスクをすることで眠りが深くなったし、寒い時は冷たい空気を吸い込むことを防ぐことで体温維持にも効果てきめんだ。
しかし、中にはマスクの正しい知識がないのか、慣れていないのか、鼻出し、顎かけの人を見かける。また、アイデア商品なのだろうが、口の部分に横長のジッパーを開閉して、ストローで飲んだり、喫煙したりできるマスクとして正しく機能しないようなバージョン、カラフルなデザインやブランドのロゴを入れたものも含め、マスクはファッションの一部にまでなった。
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マスクで思い出すのは正義の味方やヒーローたちで、日本で言えばタイガーマスクや仮面ライダー、アメリカならスパイダーマンやバットマンだ。泥棒や悪人が顔を隠すのは捕まらないだが、その悪を助けるヒーローたちまで顔を隠す必要はないはずだが、彼らとて悪人たちから狙われる可能性だってあるし、他にも色々と事情があるのだろう。
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人は誰もが少なからず何かしらの仮面を被っている。マスクは自分を守る為のものでもあるが、見えない部分(秘密、謎)を作りだすものでもある。人は時代と共に、また一緒にいる人たちや環境によって変化していく。だから今正しいと思っていても、次の瞬間、間違っていると云って、周りを混乱させたりすることもあるだろう。それでも自分はできるだけ、素顔のまま人と接したいと思う。いつも誠心誠意尽くしていれば、その思いは伝わると信じているし、そんな自分を受け入れてもらえないのであれば、受け入れてくれる人たちを見つければいい。いつも誰にでも好かれたい、よく思われたいと考えるから無理が出てくる。だから、コロナ予防対策でマスクは外せないものの、心のマスクはいつも外して風通しを良くしておきたい。
2022年7月17日
文:河野洋
[プロフィール]
河野洋、名古屋市出身、'92年にNYへ移住、'03年「Mar Creation」設立、'12年「New York Japan CineFest」'21年に「Chicago Japan Film Collective」という日本映画祭をスタート。数々の音楽アーティストのライブ、日本文化イベントを手がけ、米国日系新聞などでエッセー、コラム、音楽、映画記事を執筆。現在はアートコラボで詩も手がける。