水になれ
今回のテーマ:慣用句、ことわざ
by 河野 洋
ことわざは先人たちのありがたい教訓だ。「急がば回れ」とか「石の上にも三年」とか、当たり前のように日常で使うものも、じっくり考えてみると本当に良く人間の性質を捉えていて感心する。それは英語と日本語では言い回しが違っても、やっぱりうなづけるものが多々ある。
30年前にアメリカに来て覚えたことわざは、“Waste Not, Want Not”というものだった。僕は食事の時に聞いたので、「食べ物粗末にするな」という意味で捉えたが、これは食べ物に限らず、どんなことにでも当てはまる。つまり無駄にしなければ(ものを大切にすれば)、同じものを欲しがることもない、ということ。しかし、無駄の種類が違うかもしれないが、日本もアメリカも無駄が多い。今はどうか知らないが、日本ではハンカチを携帯し、ティッシュ、ナプキン、トイレの手拭いペーパーは必要なかった。それが、アメリカだと、例えばファストフードの店などで食事をすると、必要以上にナプキン、プラスチックのナイフやフォーク、ケチャップ、砂糖、そういうものも山ほどくれる。捨てることができない日本人は家に持ち帰る人が多いのではないだろうか。逆に日本で無駄だと思うものは過剰な包装だろう。最近では世界どこでもプラスチック袋の使用が禁止され、トートバッグなどを持ち歩くようになったが、まだまだ無駄が多い。一人一人が意識して、さらにゴミを減らすようにしたいものだ。
他にも“Don’t judge a book by its cover”という好きな英語のことわざがある。これは、表紙で本の価値を決めるな、という教訓だが、人間は既成概念や先入観で人やものごとを判断する傾向が強い。だから決して外観で人を判断したり、吟味する前から頭の中で勝手に内容を決めたりしない方がいいということだ。僕は好奇心が人の何十倍もあるので、未体験のことや、知らないことには全て興味を持ってしまう。「X Xに行ったけど、とてもよかったよ」と聞くと、直ぐにWish Listに追加する。だから、行きたいお店や観光地はいつも追いつかないくらいたくさんあって、いつも次はどこへ行こうかな?とワクワクしている。それは、仕事や生活の中で言うTo Do Listで、どちらのリストも全て予定表に書き込んで、達成するとチェックマーク✅を入れる。そのリストはアーカイブにしていくので、過去どんなものに興味を持ったかを後で見返すと、自分の歴史がわかって面白い。
最後は我が師ブルース・リーの名言である。 “Be Water My Friend”、日本語にすれば「友よ、水になれ」と言うシンプルな言葉だ。文字通り、心を無にして全てを受け入れれば、それは最強の武器だと言うこと。なぜなら水は、どんな形にもなれるからである。コップに入れればコップの形に、ボトルに入れればボトルの形になり、自由自在に変身する。こんな素晴らしいことはない。土の中なら染み込んでいき、川になれば岩をも砕く。地球は75%が水で覆われていて、人間の体も50%以上は水分でできていると言う。だから僕は水になりたい。だからなのか、僕の苗字は河野で「河」が流れ、名前は「洋」と言う海洋が広がっている。しかし、最近は水ではなく、ビールやワイン、ウィスキーをついつい飲んでしまうので、健康を考え、もっと水を飲まなくちゃ。
2023年1月28日
文:河野洋
[プロフィール]
河野洋、名古屋市出身、'92年にNYへ移住、'03年「Mar Creation」設立、'12年「New York Japan CineFest」'21年に「Chicago Japan Film Collective」という日本映画祭をスタート。数々の音楽アーティストのライブ、日本文化イベントを手がけ、米国日系新聞などでエッセー、コラム、音楽、映画記事を執筆。現在はアートコラボで詩も手がける。
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