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現実と甘い夢

今回のテーマ:バレンタイン・デー
by 河野洋

これまで一体いくつのチョコレートをもらっただろう。本命チョコをもらった記憶は乏しく、義理チョコが数えるくらいはあったかしら、という程度。正直、バレンタイン・デーの思い出はあまりない。チョコのひとかけらは美味しいけれど、自分自身はロマンスのかけらもないのかもしれない。などと書いてしまうと、以前、おつきあいした女性に失礼か。

つい先日、知人のビデオレターを見ていたら、健康診断へ行った際、問診票の性別欄に10項目も並んでいたという。以前は男性と女性の2つしかなかったのに、他に8つも項目があるという事実に驚いてしまった。チョコレート屋さんも男性から女性へ、女性から男性へ、というだけではなく、様々なシチュエーションを考えた売り方をしないといけないのだから苦労がうかがい知れる。ビジネス様式も時代と共に変わってきているのだ。

その視点から少し発展させてみると、そもそも、どうして思いを寄せる相手や大切な人にだけチョコをプレゼントするのかと思う。もっと自由な発想で、例えば、ホームレスにあげるとか、喫茶店はチョコをコーヒーに添えたりするとか、ささやかな喜びをみんなで共有できたら楽しいのになぁ、と思ったりもする。

チョコの魅力は何と言っても「甘さ」だが、人生に置いて甘さは禁物だ。考えが甘い、脇が甘い、甘く見るな、甘い罠、同じ甘いでも、注意しなければいけない甘さがたくさんある。食べ物にしても甘党は要注意しないといけない。糖分を摂りすぎると糖尿病になる恐れだってあるのだから。つまり、人生は甘さも辛さもバランスが大切ということ。

1983年、ユーリズミックスという英国ポップデュオが「Sweet Dreams」という大ヒット曲を生んだ。僕が中学生の頃にラジオやMTVで流れていた曲だが、2022年の今もなお、この曲を耳にすることがある。夢を実現できると甘く考えていたのかもしれないし、甘い夢に浸っていたのかもしれない。何れにしても夢を見るなら、甘さ控えめにしておく方が無難かもしれない。

その「甘さ」が名前になっている人もいる。ストライパー(Stryper)というクリスチャン・メタルバンドのリードシンガーはその名もマイケル・スィート(Michael Sweet)。名前を聞いただけでもとろけそうだ。甘い名前は他にもあって、野球を通して日米交流に貢献したボビー・バレンタイン監督がその人。日本ではロッテの監督、米国ではNYメッツなどいくつもの球団のマネージャーを務めた華やかな経歴の持ち主だが、2021年に出馬した生まれ故郷コネチカット州スタンフォードの市長選では、接戦の末、残念ながら落選。名前こそバレンタインと好感を抱かせたが、人生はそこまで甘くなかったということか。

コロナで2年近くも大人しくしていたが、今年のバレンタインデーは思い切って外出して、チョコでも買ってみようかな。甘さ控えめの..

2022年2月12日
文:河野洋

[プロフィール]
河野洋、名古屋市出身、'92年にNYへ移住、'03年「Mar Creation」設立、'12年「New York Japan CineFest」'21年に「Chicago Japan Film Collective」という日本映画祭を設立。米国日系新聞などでエッセー、音楽、映画記事を執筆。現在はアートコラボで詩も手がける。

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