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ニューヨークのイエローキャブもアプリ使えっていうの?

今回のテーマ: ウーバー
by  萩原久代

ニューヨーク市ではひと昔前だとタクシー(イエローキャブ Yellow taxi cabs)とハイヤーやリムジン(For-Hire vehicles)くらいしかなかった。アプリでライドシェアが急速に拡大したのは2015年以後のことだ。ライドシェア会社は、ride-share companyとか、ride-hailing companyと言われる。アメリカの最大手はウーバー(Uber)とリフト(Lyft)だ。こうした新興ライドシェアは地元のタクシービジネスを圧迫してきた。

ニューヨーク市では「ニューヨーク市タクシー&リムジン委員会」(TLC: New York City Taxi and Limousine Commission)という市の行政機関がライドシェアを含めた個人旅客運輸業界の規制を担当する。市内で顧客輸送サービスをするためには、TLCライセンスを取得しないければならず、タクシーだけではなく、ライドシェアも対象となる。ライセンス登録された車両は13万台を超えるという。

市内で顧客輸送サービスを提供するドライバーは、TLCの規定に則って営業ライセンスを取得することが義務付けられている。これはウーバーのドライバーとなるためにも適用される。顧客輸送用の運転免許の取得に加え、薬物検査、健康診断、運転コースの受講などが必要とされる。タクシー運転手と全く同じ要件を満たさねばならない。そんなわけで、タクシーやハイヤーの運転手が、空いた時間にウーバーの運転手でバイトしていることもあるし、逆にそっちに特化してタクシーを辞めてしまった人もいるようだ。一方、TLCライセンスのない車はいわゆる「白タク」で、違法行為にあたる。

ライドシェアの普及はもうどうにも止まらない。ニューヨーク市にウーバーが登場して2年ほど経った2016年末には、すでにライドシェアの月間輸送回数は1,078万回に伸び、イエローキャブの1,044万回を抜いてしまった。その後もライドシェアが鰻登りで、2019年には月間輸送回数が2,000万回以上に増えた一方で、イエローキャブの利用は700万回まで下降を続けた。パンデミックの2020年~2021年はどちらも利用激減したが、2023年以後にコロナ前の輸送回数レベルに回復できたのはライドシェアだった。2024年5月実績だと、ライドシェアの月間輸送回数は2,070万、それに比べてイエローキャブは372万とさらに減少した。

黄色線がイエローキャブの月間輸送回数、紫線がライドシェアサービス。
グラフ中央の両方の大きな落ち込みは2020年半ば。
TLCホームページ: https://www.nyc.gov/site/tlc/about/data-and-research.page

イエローキャブにとっては大きな受難時代になったものだ。
もともとイエローキャブは街角で手を上げて呼ぶ(hailing)ことができる唯一のサービスで、タクシー車両にはTLCの営業許可証(メダリオンと呼ばれる)の装着が必要となる。その数は13,000枚強に制限されている。一昔前にはメダリオン一枚が、数十万~100万ドルという高値で取引されていた。が、近年は大暴落したという報道が目立つ。アプリで呼ぶ(e-hailing)のライドシェアサービスの急速な普及が背景にあるのは明白だ。

イエローキャブものんびりとはできない。アプリの便利さから、2018年頃からは
イエローキャブを利用するためのアプリ(Curb やArro)が登場した。これだとアプリで配車依頼しても普通のタクシー料金だ。ところが、遂に2022年からはウーバーのアプリでもイエローキャブを手配することが可能になった。ただ、その場合、TLC規制下の決まったタクシー料金ではなく、イエローキャブもウーバーのアルゴリズムが勝手に決める料金で走ることになる。

さて、気になるのはアルゴリズムが決める運賃だ。
アメリカのある調査(2022年)によると、ウーバーで10キロ走行した際の平均的運賃は、やはり、ニューヨーク市の運賃が世界最高レベルの34.74ドルだった。アメリカ内では中西部や南西部の都市が安めで、15ドル程度だ。これは1日の朝昼晩の平均的運賃であり、時間帯によってはもっと高くなる。

世界の主な都市での10キロ走行の平均的運賃をみると、やはりアフリカ、アジア(インド、パキスタン)、中南米では2~5ドルと安い国が多い。それぞれの国の物価にある程度比例しているようだ。

調査HP: https://www.netcredit.com/blog/cost-uber-around-world/

欧州諸国については、アメリカの主な都市での運賃分布に似ている。ロンドン(26ドル)やパリ(28ドル)、そして北欧やスイスなどが他国より高い。東欧や南欧の都市は10ドル程度のところもある。ただ、ルーマニアの首都、ブカレストは6.71ドルと群を抜いて安い。私の経験でもブカレストは物価に比例して低いという以上に、ウーバーが特に安い感覚があった。(⇩ ルーマニア旅行記)

実は、ニューヨークで私はタクシーもライドシェアもあまり利用していない。でも、ライドシェアを使った経験では、場所と時間帯によって運賃がずいぶんと違った。需要と供給によってアルゴリズムが判断するから、ニューヨーク市内だとラッシュアワー時間帯は値段が釣り上がる。街角でイエローキャブを拾った方が安いかな、という時もあった。

ところが、イエローキャブが昔のように空車でスイスイと走ってない。
みんなアプリで呼び出して利用するから、街角で手を上げてタクシーを捕まえようとする人をほとんど見かけなくなった。お客が乗ってないのに空車サインが点灯してないタクシーもよく見かけるようになった。今、街角では、スマホをちらちら見ながら車を待つ人だけになっている。

いやあ、ほんと、タクシーは手を上げて拾うっていう行動、もうすぐなくなっちゃうかもしれない。


萩原久代
ニューヨーク市で1990年から2年間大学院に通い、1995年からマンハッタンに住む。長いサラリーマン生活とフリーを経て、のんびり隠居生活を開始した。ニューヨークを本拠にしながらも、冬は暖かい香港、夏は涼しい欧州で過ごす渡り鳥の生活をしている。

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