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熟女のコーヒータイム


今回のテーマ:コーヒー
by   萩原久代

 
物価の高いニューヨーク市内でも、5年前なら消費税込みでも2ドルちょっとで小カップのアメリカンコーヒーが飲めた。この夏、最低でも4〜6ドルだ。スタバでさえ、ハウスブレンド小カップが消費税込みで4ドルを超える。(4ドル=約520円)
 
世界的に値上がりして、コーヒーはどこでも高くなった。しかし、アメリカンコーヒーに4ドルを払う気はしない。そんなわけで、外でコーヒーを飲んだりテークアウトすることがめっきり減った。コーヒーの値段は、日本に比べてアメリカでは大幅に低かったのに、それも「今は昔」となった。
 
もともと私はコーヒーを毎日何杯も飲むわけではない。週に数回、コーヒーのために時間を作って、香りを楽しみながら飲むのが好きだ。でも、コーヒーの種類にうんちく傾けるタイプではなく、挽き方や入れ方にこだわりはない。酸味が少なくて香りの良いコーヒーならなんでもかまわない。
 
コーヒーメーカーに挽いたコーヒー豆と水をセットしてスイッチを入れるだけ。何十年もドリップ式コーヒーメーカーを使ってコーヒーを飲んできた。ところが、2022年春、ガラスカラフェを割ってしまった。10数年使った古いモデルだったのですでに生産終了しており、カラフェだけのパーツも入手不可能だった。新しいコーヒーメーカーを買うしかなかった。
 
数日悶々と迷った挙げ句、新しくコーヒーメーカーを購入しないで、自分でハンドドリップして飲もう、と決めた。電気を使わずに済むし、一人分だけ美味しくハンドドリップするのも悪くない。ゆっくりした時間の中で、ゆっくりとハンドドリップ、これって熟女のコーヒータイムらしいかも? なんて勝手に想像した。
 
ハンドドリップにはドリッパーと紙フィルターだけあればすむ。が、学生の頃に友人の家で見たガラス製コーヒーサーバーのことを思い出した。デザインがとても素敵だった。『CHEMEX(ケメックス)』というブランドで、三角フラスコと漏斗を合体したような形だ。1941年にドイツ系アメリカ人の科学者ピーター・シュラムボーン博士によって考案されたものだ。今でも同じ商品が販売されている。ケメックスを購入しようと色々と調べていくと、ケメックス専用の紙フィルターが必要らしいとわかった。通常の紙フィルターでも問題ないようだが、気になる点だった。
 
さらに調べていくと、スイスの『BODUM(ボダム)』のコーヒーサーバーが見つかった。ケメックスに似たデザインだが、こちらは少し丸みがあり、ドリッパー部分に紙フィルターではなく、ステンレス製フィルターを使う。これなら洗って何度も使えて経済的だ。丸みのあるフォルムが可愛い。ということで、ボダムをゲット! 
 
すぐに気に入ったのだが、数ヶ月すると、コーヒーを淹れるたびにコーヒーの粉がべったりついたステンレス製フィルターを洗うのが面倒になった。結局、ステンレス製フィルターの上に紙フィルターを敷いて挽いた豆を入れることにした。資源の無駄使いとわかっていてもやめられない。味は変わらない(と思う)。
 
ゆっくりハンドドリップしたコーヒー、香りは部屋を満たし、豊かな気分にさせてくれる。大好きなスコーンと一緒にコーヒータイムを楽しむ。至福の時間が流れる。
 



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萩原久代
ニューヨーク市で1990年から2年間大学院に通い、1995年からマンハッタンに住む。長いサラリーマン生活を経て、調査や翻訳分野の仕事を中心にのんびりと自由業を続けている。2010年からニューヨークを本拠にしながらも、冬は暖かい香港、夏は涼しい欧州で過ごす渡り鳥の生活をしている。

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