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続・私は1度見れば十分だ(30年前の渋谷ハロウィーンの記憶)

今回のテーマ:ハロウィーン

by  らうす・こんぶ

今から30年前。日本でもアメリカのハロウィーンというお祭りのことが知られるようになってきた。その頃、私はニューヨークに行く決意をしていたので英語を勉強しており、外国人の友達もいた。

ある時、その友達から、東京在住の外国人(主に英語学校の教師たち)の誰かが秘密裏に渋谷でハロウィーンを行う画策していて、外国人の間でその情報が拡散されているらしいと聞いた。で、それを観に行こうということになった。

外国人は(欧米人は、かな、それともアメリカ人は、かな)サプライズが好きだ。それで、秘密裏に計画しているということなのだろう。どうやら山手線をジャックするという噂も入ってきた。

私はちょっと嫌な予感がした。その情報は外国人の間で拡散されていてーーもちろん、私のように外国人の友達から聞いて知ったという日本人もいたとは思うがーーそれを計画している人たちは日本人の意見もよく聞かずに、自分たちのノリで勝手なことをして騒ぐのではないかと。

ハロウィーン当日渋谷に行ってみたら、東京にこんなに外国人がいたのかと思うほどいろんな格好をした外国人が三々五々集まってきた。記憶に鮮明に残っているのは、緑か紫の風船を体にいくつもつけてブドウみたいないでたちでやってきた白人女性だった。

それから私を誘ってくれた外国人の友人と、コスチュームに身を包んだ他の外国人のグループと一緒に山手線に乗り込んだ。私はあまり気乗りはしなかったが、何が起きるのか”目撃”したいという好奇心はあったからだ。

すると、案の定、山手線をジャックした人たちは賑やかで楽しそうだったーー私が観た限りでは特に迷惑行為はなかったーーが、一方、日本人乗客の反応は様々だった。何が起きているんだろうと面白そうに眺めている若者、何が起きているんだかわからずキョトンとしているおばさん。憮然とした表情でじっと座っているサラリーマン……。ほぼ私が予想していた通り、楽しそうな人よりは迷惑顔の人が多かった。

で、私はどう感じたかというと、とても居心地が悪かった。友達はこういう場で普通の格好しているのはかえってダサい、僕もハロウィーンらしい格好をしてくればよかったと言って、ネクタイを外してバンダナみたいに頭に巻いたが、私はただ白けていた。全然楽しくなかった。心の中で「郷に入りては郷に従えよ。日本の電車はこういうことをする場じゃないんだから」と思っていた。

さっき書いたけれど、アメリカ人は”サプライズ”が好きだ。動画では地下鉄で結婚式をしている様子とか、ファッションショーをしているのを観たことがある。あちらの人たちは陽気で気がいいから、乗り合わせた地下鉄の車内で結婚式をやっていたらたいてい一緒に祝ってくれる。

でも、電車の中には失恋したばかりの人や離婚したばかりの人、何か悲しい思いや辛い気持ちを抱いている人がいるかもしれない。悩み事や心配事を抱えて考え込んでいる人もいるかもしれない。そんな時は人の幸せを笑顔で祝福する余裕なんかないだろう。

こういうパブリックな場所でのサプライズには、どこか、「どう、私たちのアイディアよくない?みんなも楽しいでしょ」という傲慢さがちらつく。「みんな楽しんで当たり前」、もしくは「みんなで祝福しよう!」のような押し付けがましさを感じる。私は狭量なので、こちらの事情を無視してサプライズを仕掛ける人たちに対して好意的な気持ちにはなれない。

山手線のハロウィーンジャックも、それに参加している外国人たちの、「東京の人たちにこんな楽しいこと知らないだろう?自分たちの楽しい文化を分けてやったぜ」みたいな思い上がりを感じて不愉快だったのかもしれない。

あの頃から渋谷ではハロウィーンが恒例になったと聞く。今ではもちろん、日本人の若者も大勢参加しているだろう。日本人はコスプレが好きだし上手だから、さぞかし盛り上がることだろう。もちろん、私は行かないけどね。好奇心があったとしてもネットで投稿写真や動画を見れば十分だ。

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ニューヨークでのハロウィーン体験

ニューヨークでは20年以上前(ニューヨークに住むようになる以前)に一度だけハロウィーンパレードを観に行った。次々に意匠を凝らしたコスチュームに身を包んだり、さまざまなメッセージを書いたプラカードを掲げた人たちが流れてくる。さすがニューヨーク。規模が大きく華やかで見応えがあった。私が気に入ったのは、赤ちゃん連れの若い夫婦で、二の腕にイカリのタトゥを”描いて”ポパイに扮したパパとオリーブに扮したママがベビーカーを押しながら歩いていた。

その当時はローラーブレーダー(縦一列にローラーが並んだローラースケートみたいなの)が流行っていて、それに乗って参加している人たちもたくさん見かけたのを覚えている。

でも、これが私がライブで見た最初で最後のニューヨークのハロウィーンパレードとなった。その後ニューヨークに住むようになったので20回くらいハロウィーンパレードを見る機会があったが2度と行かなかった。1年以上前に書いたパレードをテーマにしたnoteのエッセイ「私は1度見れば十分だけど」にも書いたけれど、私は人混みが嫌いなので、プライドパレード(かつてのゲイパレード)もハロウィーンパレードも、1度見てどんなものかわかればもう十分なのだ。

そんな、ハロウィーンがそれほど好きじゃない私だが、2度ほど誘われて友だちが主催したハロウィーンパーティーに行ったことがある。普通の格好じゃ入れてもらえないので、お金の掛からないコスチュームを考案した。1回目はお菊人形。浴衣を着て、頭には黒のビニールのゴミ袋で作ったロングヘアのカツラをかぶった。2回目は海賊。膝下丈のパンツにボーダーシャツ、それにボール紙をマジックインクでくろく塗って丸く切り抜いてパッチを作り、紙で碇のタトゥーを作って二の腕に貼り付けた。

お金を出せばスーパーマンでも、魔女でも、スパイダーマンでもよくできたコスチュームを調達することができるが、それじゃ他の人と同じでつまらない。私の手作りコスチュームのほうが個性的でクリエイティブでせう?その頃はビンボーだったから、そんなところにお金を掛けられなかっただけなんだけどね。



らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

らうす・こんぶのnote: 

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