2024/11/03 「文具の日」
ガシガシと消したつもりの消しゴムの痕は真っ黒になっていた。
「こういう消しゴムは使わない方がいいよ」
真っ黒な解答用紙と共に先生はそう言った。私は黙って頷いた。
そして、ガシガシと消していく。黒く黒く染まる紙。
「他に消しゴムはないの?」
真っ黒なノートを返しながら先生は聞いた。
「ありません。これがいいんです」
私はそう答えた。
ガシガシ。
黒くなる消しゴムは嫌われている。でも、私はこれが好き。
ガシガシ。
「これ、使いなさい」
先生が使いかけの消しゴムを私に渡してくれた。白い消しゴムは消し痕が黒くならない。
これではない……。私が欲しいのはこれではない。
「前に渡した消しゴムはどうしたの?」
真っ黒なノートを見て、先生がそう聞いた。
「無くしました」
三者面談の日、話が終わりそうになったころ、先生が言った。
「あの。消しゴムは他には持っていないんですか?」
母は訳が分からないという顔をした。
「実は黒くなる消しゴムを使っていて、消した後が汚くなるので新しい消しゴムに替えてほしいのですが……」
私に言っても仕方がないと作戦を替えたようだった。私の答案用紙を見せながら、こうなると困るのだと説明している。
「これ、あなたの消しゴムでこうなってるの?」
母の言葉に私は頷いた。あれがいいのに。
「すみません。新しい物にしますから」
母の言葉に先生がホッとした顔をする。ああ。黒いからよかったのに。
ノートは黒で、テストは新しい消しゴムでと私は使い分けた。
黒く黒く……何が書いてあるかなんて私にもわからない。
黒い消し痕の上の黒い線。でも、これがいい。知りたいことはない。ただ、にやりと不敵に笑う月の消しゴムを使いたいだけ。
本当はこれが消しゴムなのかどうかさえ分からない。消えたような気がするから消しゴムだと思ってるだけ。汚くなるとか、読めないとか、そんな事すらどうでもいい。
黒くにじむように広がる鉛筆の跡。その上に書かれる文字。
それが暗号みたいで楽しいだけ。
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