~氷の涙~贖罪の星【同士】2
「あ。違うのこの人達は助けてくれて」
私は今までのいきさつを説明する。
「とりあえず、図書館に戻ろうか。古文書も置いたままだし」
シェフィアは未だに彼女たちを睨んでる。
彼女たちもシェフィアのことを睨んでるようだ。
「古文書?何の?」
歩き出した私に黒髪の少女が聞く。
「氷の涙について書かれている古文書」
私は簡単に説明する。
信じてくれた人なんていないけどね。
「私にもそれ見せてくれる?」
「信じるの?」
意外な反応だった。
「わからない」
古文書は開いたままの状態だった。
開いていたページはちょうど解読中。
彼女はそれを見て、ペラペラとページをめくる。
「何のためにこんな物が欲しいの?」
しばらくして彼女はゆっくりと口を開いた。
「これがあればシェフィアは人になれるのよ」
私は少し苛立った口調で答えた。
私達にとってこれは「こんな物」なんかじゃなかったから。
「そう」
本を机に置き、彼女はため息をつく。
「だったら、諦めたら?これは願いを叶えるモノじゃないわよ」
「何、言ってるの?だってそこに書いてあるじゃない」
後ろで紅い髪の少女が微かに笑った気がした。
「だって、これ私が書いたおとぎ話だもの」
「え??だってこれはずっと昔に書かれた・・・」
私には何がなんだか分からない。
「だから、私達もずっと昔から生きてるの」
「あなたと同じだろ」
何も言わないシェフィアに赤髪が聞く。
「同じ?違うだろ。お前達は俺達とは」
「違うか・・・。確かに同族かどうかで言えば違うな」
人の心を見透かすような赤い瞳が笑う。
「とにかく、これは諦めた方がいいわよ。氷の涙は願いを叶えるモノじゃないから」
「そんな。それじゃあ、シェフィアは」
泣き出しそうになった私に慌てたように彼女は言う。
「ちょと、待ってよ。別の方法ならあるってば」
「え?」
「確か、南の国だったかな?随分昔でうろ覚えなんだけど・・・」
そう言いながら上着のポケットに手をやってる。
「これと似たような古文書に『ブルースノー』について書かれてあるの。
別名『氷の涙』と言われたこともあったけどね。それなら、人に戻れるかもね」
そして、小さな銀の鍵をポケットから取り出す。
「これがその古文書の鍵。それがあれば古文書を開くことが出来るわよ」
微笑む顔に黒髪が揺れる。
「ちょっと、貴夜!!」
紅い髪の少女が何か言おうとしたが、それを黒髪の少女がとめた。
「あ、ありがとう」
私は満面の笑みで感謝の言葉を述べた。
シェフィアは「荷物をとってくる」とだけ言って行ってしまった。
私はといえば、何処にも行くなよと念を押されて置いてかれた。
確かに勝手に動き回ったのは私ですけど・・・
傍にはまだあの2人がいる。
古文書を手にいろいろ話し込んでいるようだ。
「あなたは、彼を愛してるの?」
不意に黒い瞳に顔を覗かれる。
「え?あの。まあ・・・そういうことになるのかな」
私は顔を真っ赤にして答えた。
「愛する自信が無いのなら、とっとと離れてなりなよ」
紅い瞳が少し離れたところでこっちを見てる。
「なんで、あなたにそんな事言われなきゃいけないのよ」
ムッとして私は言い返す。
黒い瞳がゆっくりと視線を上げ空を見つめる。
「だって、あなたは終わりが見えてるけど、彼は終わりなんか見えないのよ。
気まぐれに触れる気なら最初から触れない方がいいのよ。
そうすれば、孤独な時間が減るわ。不幸だと嘆かなくてすむわ」
辛そうに悲しそうに紡がれる言葉。
「私は彼を愛し続けるわ。だって、これは運命だもの」
笑って私は答えた。
「それを聞いて安心した。彼は幸せね」
黒い瞳が微かに揺れる。
何を思って?幸せを願って?
「ところで、これ。どうする?」
古文書を手にして紅髪が全く別の話題を振ってきた。
「いります。おとぎ話でも、少しでも解読できるようにならないと」
もう一つの古文書もこれと同じ文字で書かれているそうだ。
だから、文字の勉強に・・・
「じゃ、これは貴女がもってるのね」
渡された古文書は新しい可能性。
「さっさと、ここから離れるか」
いつの間にやら、シェフィアが後ろにいた。
「荷物持ってくるの早いね」
「ああ、ちょっと屋根の上を飛んで急いできた」
昼真っから派手なことを・・・ばれてなければいいか。
「じゃ、またね」
彼女たちが手を小さく振った。
「また会う気なんかない」
シェフィアが歩き出しながら答えた。
「あ、さよなら」
私もそそくさと彼の後を追う。
彼女たちが小さくため息をついていた。
「もう、シェフィアったらなんでああ素っ気ないのよ」
「奴らに関わってるヒマなんか無いだろ」
「そりゃ、そうかもしれないけどさ」
私はそっと彼の手を掴む。
「急ぐか」
彼はそう言うと私を抱きかかえたまま、ぽーんと屋根の上に飛び乗る。
「ちょっと、また人に見られたら!!」
「追っ手に捕まるよりましだろ」
私はぎゅっと彼に抱きつく。
愛し続ける自信なんか無い。
だってこれは運命だもの。
永遠の罪を一緒に背負う運命。
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