2024/06/22 「かにの日」
「かには、足が沢山あって食べ応えがあるんだよね」
同居人が死んだような目でそう言いながら、カニみそをそっと私の方へ押しやった。
「何?」
思わずそういうと、同居人が泣きそうな声で訴える。
「ごめん。カニは嫌い。今日のご飯はいらないから、これは君が食べて」
思ってもいなかった言葉に、私は唖然としてしまう。そういえば、『カニは大丈夫か』は聞いてなかった事を思い出した。
「これ、全部、いらないってこと?」
同居人は無言で頷いて立ち上がり、部屋へと戻ってしまった。
失敗した。確かにカニはアレルギーの場合もあるから、確認した方がいい食品だった。つい安いからと大量に買い過ぎた。私は諦めて、一人で食べることにした。
しばらくするとチャイムが鳴る。
「レイ?」
同居人の友人がそこに立っていた。何の用かと聞く前に「カニ、食べに来ました」とずかずかと入り込んでくる。
「わぁお。おいしそう。彼は食べられなくて可哀そうだね。代わりに食べてってヘルプが来たから来ちゃった」
私の知らないところで、そんなヘルプがあったらしい。同居人の部屋の扉が開いて、「ごめん。呼んじゃった」と扉の隙間から声だけがした。こちらに来るのも嫌なようだ。
「いいよ。おにぎり……はなかった。パンでも食べる? インスタントのスープならあるけど。部屋で食べる?」
そう声をかけると、同居人は頷いて「ありがとう」と早口で言って扉を閉めた。
「匂いがダメらしいよ」
レイがそう教えてくれる。
次は気を付けよう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?