忘却
声が聞こえる。
誰の声?
耳は音を捉えているのに、瞼はあがろうともしない。
声は次第に大きくなっているのに、唇は開こうともしない。
その声に返事を返さなきゃ・・・
頭の中でそう考えてはいるけど、思いは全く別の方向に飛んでいる。
頬はパサパサした枯れ葉のようなものに当たっていた。
肌に冷たい風を感じている。
風の音が鳴っている。
木々たちがざわめいている。
森の中かな~
ゆったりとした感覚で私はそう感じた。
何だろう、とても寒い。
寒くて・・・・眠たい・・・
瞼は相変わらず開く気配がない。
声は遠く異界から聞こえるみたいに、小さくなってゆく。
ああ・・・このまま寝ちゃおうか。
瞼を開ける気しないし、意識は飛びかけてるし。
うん、このまま飛んじゃうのもいいかもしれない。
お空を飛ぶように意識が浮いていく。
うわ~気持ちいい。
このまま遠くまで飛べると良いな。
そう・・・・
このまま・・・・ずっと・・・
くら~い。
お空じゃないや。
雲がないし、鳥がいないもの。
辺りは闇しかない。
自分の手すら見えない。
どうしてここにいるんだっけ?
何か訳があったような。
何だっけ?
考えなきゃ。どうしてなのか?
なぜ?
私は焦っていた。
早くしないと・・・
!!
突然、闇の中から手が伸びてきた。
手・・・
そう、手だけだ。
その先の人物が見えない。
闇がじゃまをする。
いやっ
助けて。
これはよくないことの前触れ。
私にとって怖いことが起こる。
誰か!!
答えてくれる者も助けてくれる者もいない事は分かっているのに。
ここには誰もいない。
私以外・・・
逃げる事さえできない。
その場に縛り付けられたような感覚。
足は動くことを諦め、目は手からそらすことができない。
それでも手は助けを求め、空に舞う。
握り返す手など無いと知りながら。
無駄な行為。
その闇の手が私に触れるその刹那。
キョウフ・コンワク・オビエ・・・・
あらゆる感情が爆発する。
イヤ・・・・イヤアアアァァァァ
体中に電流が走ったような気がした。
はぅっ
上半身が飛び上がる。
汗をびっしょりとかいている。
鼓動が早く脈打っている。
目が醒めるとそこも闇。
何処?
次第になれた瞳が、部屋を映し出している。
結構広い部屋だ。
左側に窓。右側に扉。
まん前に化粧台やタンス。
左斜め前に机。
私はベットで寝かされていた。
何でここにいるの?
理由は?
分からない。
どうして、何故?
「悪い夢でも見たのか?」
と、扉のほうから男の声がした。
扉は閉まっている。
扉の向こう側にいるみたいだ。
「だ・・・誰ですか?」
私はこわごわと聞く。
ベットの上で私はシーツにくるまった。
「入っていいか?」
私の問いに答えず、男は言った。
「ダ・・・ダメ。来ないで下さい」
まだ、夢の続きのようで怖かった。
「分かった。俺はリィーグル」
「リィーグル?」
聞いたことのない名前。
変な名前・・・。
「お前は?あんな所で何してたんだ」
私・・・。
ダレだっけ。
何処で何してたんだっけ?
覚えてないや。
「あんな所ってどこです?」
「・・・。だから、森の中で裸で寝てたんだよ。シーツ一枚に包まって」
裸で?森の中・・・。。?
そんな所になんでいたんだろう?
しばらく黙ったまま考えていた。
「おい、寝たのか?」
「・・・。」
私は答えなかった。
リィーグルは足音を忍ばせて扉の前から遠のいていくようだ。
私は頭の中で考え込んでいた。
リィーグルという人がなぜ私を助けたのか。
なぜ私がここにいるのか。
理由。訳。回答。
どれを探しても、答えがでてこない。
どうしてだろう。
いつもなら簡単に・・・。
簡単に?
自分の名前さえ覚えてないのに
答えなんて見つかるはずない。
こういうのって記憶喪失っていったっけ?
うん。私、記憶が飛んでるんだ~。
どこに・・お・・・いて・・・きたん・・・だろ・・・?
わ・・た・しの・・・き・お・・・く・・・・・。
《忘れなさい。何もかも全て・・・》
遠くで機械のような音がした。
ヴィィィィン。ィィィィィン。
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