2024/09/30 寒蝉(かんせん)
涼しくなるとセミたちの声が変わる。
ツクツクボーシ
カナカナカナ
もの悲しい音が夕暮れにかぶさると、夏が過ぎたのだなと思う。
さらに陽が沈むと、虫の声が混ざる。戸惑い気味だったその音が秋が深まるとともに、盛大な音楽会になっていく。
「ねぇ。夏のセミよりうるさくない?」
同居人が真っ暗な闇を眺めてそう呟く。間違ってもいないような。間違っているような。どう応えようかと思ってると、ぴょこんと虫が部屋の隅で飛び跳ねた。
「うぎゃぁぁぁぁ」
同居人の大声に外の虫たちの声も止まる。
「まぁ。秋だものね」
飛び跳ねたそれをティッシュでつまんで外に出す。
「ありえない。ありえない。黒いのさえ許せないのに」
「あれはどちらかと言えば、茶色……」
「どっちでもいい」
震えた声で同居人はのたまった。
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