2024/11/10 菊の雫(きくのしずく)
その雫は長寿を与えるという。
「迷信よ。菊の雫なんて」
そんな声にその古木の様な皮膚が動いたような気がした。
そのミイラがなぜここに祭られているのか誰も知らない。けれど、菊の雫を与えると未来を語るという。一説にはそれは過去だという人もいるけれど、そのミイラが語る『未来』は一年以内に起こる災厄だった。
何もない年は何も語らない。
それが崩れたのは三年前。何も語らず、人々がホッとしたその年に地震が起こり多くの人が死んだ。二年前は大火が起き、今年もミイラは何も語らなかった。
けれど、何かが起こるのか起きないのかがわからない。
『菊の雫』を今年も誰かが口にする。長き寿(ことほ)ぎを手にするために。親族には繁栄を。当人には長き記憶を。その記憶が通用しない時代が来ているとは人々は知らない。
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