2024/10/19 「医療用ウィッグの日」

髪が引っかかっている女性がいた。絡まっているのか中々取れないようで、とうとうハサミを取り出してしまった。

「待って」
とっさに声をかける。「みせて」と絡まっている部分を確認すると切る必要がなさそうなので、するすると解いてあげた。

「ありがとうございます」
泣きそうな顔で感謝されてしまう。
「これ、医療用ウィッグでやっとお気に入りの長さでみつけたの。だから、切りたくなくて」
「長くてきれいな髪だものね。あなたにくれた人も自慢の髪だったんだろうね」
そう言うと、ふわっと顔が明るくなる。
「そうなんです。これ、人のリレーで私の手元にいるんです」

何となくウィッグのこだわりから病気の話にまで広がってしまった。

「うん。そっか」
頷いて聞くことしかできない。そこまで深く聞くつもりはなかったのに、なぜか話が弾んでいく。そこでようやく、待ち人がやって来た。

「妹さん?」
「違う。ここで知り合って話し込んだだけの……えっと。名前は……まぁ。いっか。話してくれてありがとう」
彼女は少し驚いた顔をして、ぺこりと頭を下げた。
「こちらこそ、長々話しちゃってごめんなさい。……あ。私も待ち合わせ……時間すぎてる。ありがとうございました」
バタバタと彼女は駆けていった。

「モテるね」「そうじゃないでしょ」
待ち人のニヤケ笑いに蹴りを入れておいた。

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