第4章 微睡の星【精霊】 1
月が沈み、日が昇る。
産まれるモノがあり、死に行くモノがある。
植物が茂り人が増える。
私はタダそれを見ていた。
延々と続く時間を見つめていた。
それ以外何が出来るだろう。
何が・・・。
「ねえ。寒くないの?」
一人の少女が私に声をかける。
寒い?
「いつもここにいるね。何してるの?」
ああ、氷河期の今は寒いんだ。
ゆっくりと思考が動く。
そして、幾千年と動くことの無かった唇が開く。
「何も・・・」
雪が静かに舞っている。
虚ろながらも目でそれを追った。
「お手テ、冷たいね。暖めてあげる」
私の手を取り、その子が擦る。
ふさふさの動物の毛皮の服と靴を着てる少女。
それに対して私は薄い布の衣服を纏っているだけ。
「あのね、向こうにママが居るの。向こうで暖まろうよ」
そう言って、私の手を引っ張る。
少女が指さした方には遊牧民達のテントがあった。
「そうだね」
私はそれだけ言い、ゆっくりと立ち上がった。
少女は私の手を放さずに軽く引っ張る。
「はやく」
ルンと弾んだ声でその子は笑いかける。
私もつられて微笑み返した。
延々と歩いたと思う。
近くに見えていたテントは相変わらず近くに見えるが、一向に辿り着けない。
少女ははずんだ足取りで先を歩く。
「ねえ?何処まで行くの?」
少女に引かれる手を引っ張り訪ねる。
「もう少し」
振り返らずに相変わらずの弾んだ声で答えてきた。
風が耳元を微かにくすぐる。
炎が辺りを照らし出し、辺りが氷で覆われていることを知らせる。
氷の中にテントがある。
ここは氷の洞窟の中!?まやかしだった?
「あれ?もう気づいちゃったの?」
くすくすと笑い声が辺りに響いた。
「あなた・・・誰?」
急激に冷たくなった少女の手を振り払う。
「氷霊だよ。神に選ばれた力を持つモノ」
「力って・・・もしかして鬼炎の言ってた?」
目の前に氷がつきだし、それが形を変えてイスのようになる。
少女はそれにピョンと座る。
「そうだよ。鬼炎はあなたを試したの。自分を殺せるモノかどうか」
「な・・・なによそれ?私を殺そうとしてたんじゃないの?」
私はあの時の様子を思い出す。
「ちがうよぉ。鬼炎は死ぬことを望んでたもん。
かといってキヨは簡単に自分を殺してくれそうにないし、
だから、あんな風に挑発したんだよ」
挑発した?サザを殺して?
氷霊は私をちらりと見やり言葉を続けた。
「まあ、サザのことはちょっとした見当違いだったらしいけどね」
少女はいともあっさりと言う。
まるで私の考えに気づいたように。
「見当違い?そんな事であの子を殺したって言うの!!?」
「やだなぁ。そんなに怒らないでよ。キヨだって殺したでしょ?」
一旦言葉を切り、私に向き直る。
「鬼炎と一緒にたくさん」
ニッと笑った顔が悪魔のように思えた。
あの場所にいたのは鬼炎だけじゃない。
『ラー』の集団が居た。
私は彼らも殺していたのだった。
キュッと唇をかみしめる。
風が小さく呻いて氷霊へと襲いかかった。
氷壁が氷霊を護るように取り囲む。
風がかまいたちのような痕を氷に刻み込んだ。
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