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大地の染まる時間2

 私はグレスの為に力を使った。
 隣国が攻め込まないよう、この国を守れるよう―
 だけど、国は破れ隣国に滅ぼされた。
 気がつくとグレスは隣国の官僚としてそこにいた。
 グレスの力を買われての事だと彼は笑っていた。
「心配する事はない」と。
 だけど、私が不安だったのはそんな事ではなかった。

 日々、グレスは忙しかった。
 一緒にいるのは、私に力を使って
 手伝って欲しいという時だった。
 その他の時は家にいても、自分の部屋にこもりっきりだった。
 大抵は家にいるのは使用人数人と私だけ。
 廊下で、ふと使用人が手紙をグレスに持っていくのに気づいた。
「それ、グレスの部屋に持っていくの?」
「ええ。そうですが」
「だったら、私が持っていくわ。暇だし」
 私は返事も聞かずに手紙をもぎ取った。
「あ、あの」
「他にも仕事があるんでしょ?これくらい私がやるから」
 ヒラヒラと手紙を振って私はグレスの部屋へ行った。

 ノックをしようとした時、声が聞こえた。
「こんな事してていいの?お仕事は?」
 甘えたような女の声だった。
「別に今の所、順調だよ。周りの国は恐怖に慄いている」
「それはあの子のお陰じゃないの?」
 クススと小さな笑い声を含んでいた。
「そうだな。盗賊に襲われたあいつが力を使ってるのを見た時から、
 役に立つとは思ってたけど、これほどとはね。
 闘華はよく働いて、疑いもしない」
「怖い人ね。権力の為に、どれだけ犠牲を出せばすむのかしら」

 始めから、解っていたのにね。
 軽く押した扉がキィと小さな音を立てて開いた。
 そこには驚いた瞳のグレスと見知らぬ女。
「闘華!!」
「楽しかった?人を殺すのは。
 嬉しかった?人が死ぬのが。
 可笑しかった?騙される私を見てるのは」
「……」
 二人は息を飲んで私を見つめていた。
「始めから、力の為に近づいたのでしょう。
 祖国を裏切り、私を連れて軍事力のあるこの国に来ると
 決めていたのでしょう」
「闘華……。ちがう。私は!」
 私に触れようとした手を振り払う。
「麻薬の香を部屋に焚き、私が正気を失うのを待っていたクセに。
 襲われた時も、私が力を使うのを待っていたクセに。
 力が本物である事を証明させるために、全て仕組んでいたクセに」
 全て知っていても信じたかった。
 もしかしたら、少しでも私を必要としているのかもしれないと
 力ではなく、私自身をー
「違う!仕方なかったんだ。
 あの国には力がなかった。私達が生き延びる為にはこうするしか…」
「私達?貴方一人の為でしょ?私はこんな事、望んでいなかった!」
 テーブルにあった銃に手をかける。
「よせ。何を……」
「私にはあなたは必要ないわ。力を使って殺すまでもないわね。
 ここにこうして、殺せる力があるんだもの」
 私は優しく銃を擦り、銃口をグレスに向けた。
 パァン
 乾いた音があたりに響いた。
「……私の力はあなたの手におえるものなんかじゃない」
 荒い息遣いでグレスはへたり込んでいた。
 その横に煙を上げた、小さな穴が一つ。
「それを証明してあげる」
 私はがくがくと震えていた女に銃を放った。

「生きて、あんたが望んだ世界を見てるがいいわ」

 ごろんと女が転がった。

   【終末】

 真紅に染まった大地。
 私は戦いの女神として共にグレスの傍にいた。
 グレスが私を恐れているのを知りながら、私は彼を手放さない。
 罪を共に負い、罰の道を共に歩く。
 彼は世界の覇権を手に入れ、死んだ。
 残ったのは狂気と憎悪。

 グレスは透に似ていた。
 私を作った科学者。
 全てを知り尽くした瞳と、切望と絶望を兼ね備えた瞳。
 そして、影を落とした眼差し。
 そんな所が似ていた。

 7つの力を持つが故に、こうなるのは判っていた。
 全て消し去って―
 私がいたことも―
 この心の痛みも―
 貴女なら最後に現れるでしょう。
 人を殺す私を許しはしないでしょう。
 あなたは透に似て優しいから。

 だから、貴夜ならば全ての悲しみを絶ってくれるでしょう―






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