2024/05/15 「ヨーグルトの日」 

「あーーぶう」

赤ん坊の声が家の中からする。うちに赤ん坊がいた覚えはないと思って居間に入ると、友人が膝の上に赤ん坊を抱っこしていた。

テーブルには5つのヨーグルトの殻が乗っている。赤ん坊の手にも口にもヨーグルトがべったりとついている。さらに赤ん坊はまだ欲しいとばかりに6つめに手を伸ばしている。

「いつ産んだの?」
「まさか。一時間だけの約束で預かったのよ。……ヨーグルトを与えておけば大丈夫と言ってたけど……こんなに食べるなんて思わなかった」

友人は顔に着いたヨーグルトをふき取って「しばらく変わって」と赤ん坊を私に渡してくる。

「いや。無理無理。抱き方も分かんないよ」
「膝に乗せておくだけで良いから。テーブルにつかまり立ちさせておくだけでもいいけど、頭から後ろに倒れないように支えてるだけでも」

そう言われて、私は渋々、赤ん坊を後ろから支えるだけにする。けれど、赤ん坊はベタベタの手であちこちに触るので、私の手にもべったりとヨーグルトが付く。
さらに、まだ足りないとばかりに、机をバンバンと叩き始めた。

「ねぇ。これ、いくつ食べるの?」
「わかんない。子供ってこんなに食べるものかな」

お互いに顔を見合わせた時、玄関のチャイムが鳴った。友人が慌てて、玄関に行きドアを開けた。そのまま、バタバタと部屋にやって来ると男性が赤ん坊を抱き上げた。

「待たせたな。パパ、戻って来たよ」

抱き上げた途端、大泣きする赤ん坊。父親と子供の対面とは見えないと思ってしまう。

バシバシと頭を叩いて、赤ん坊は「おーお。おーお。なーい」と喚いた。

「ヨーグルト、ない?」
男性が友人に聞く。
「家にあったのそれひとつ。もうないよ」
友人は6つ目のヨーグルトを指さした。5つまでは父親が準備したものらしい。

「わかった。わかった。家にあるから。帰ろう。ごめん。ごみは、この袋に入れて……」

父親がテーブルを片付けようとすると友人は「いいよ。さっさと帰って」と追い出した。

父親は謝りながら帰って行った。
「赤ん坊って、ヨーグルトをこんなに食べるんだね」
「母乳はもうやめてるのに、ヨーグルト以外を食べないって。個性かな。赤ん坊全部があんな風なわけではないと思う」

友人の言葉に首を傾げる。
「偏食ってこと?」
「そうみたい。あまりにも大量に食べるから、大丈夫かどうか相談してみたらしいけど、毒ではないし、現状、多分大丈夫という答えしか返ってこないんだって。でも、ヨーグルトを与えておけば、大人しいから扱いやすいもと言ってたな。母親には言えないらしいけど」

友人はふっと笑う。

「子どもを持ってない人間に子守させるのも、奥さんに知られたら怒られそうじゃないかなと思うけど……そういう意識はなさそうだよね。私は、面白いからいいけど」

「私は嫌だよ。ヨーグルトを付けられるの」
私はそう言って、手を洗うことにした。

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