星達の集う時間4
≪《【運命・心】 ~全てはこの心の赴く先~1》≫
消したと思った部屋の明かりがついていた。
「……死神、来るのなら前もって知らせて欲しいな」
人のベットでくつろぐ、少女に僕は言い放つ。
「ふふっ。不機嫌だね。『定め』が始まったから?」
子悪魔の笑みで言葉が返ってきた。
「『定め』か。どうせ、君には先が見えてるんだろう?」
小さく頭を振り、椅子に座る。
「……さあね。まだ、変わるかもしれない」
「変えたい?」
「たぶん……」
その先の言葉は紡がれない。
死神が何を思っているのか、僕は知らない。
ただ、『定め』は僕達の上で確実に回り始めた事。
死神は手元にあるプラネットボールにスイッチを入れる。
「無意味な星屑だね」
それを見上げながら、僕は呟く。
「そうと知っていて、欲するのだろう?より強き力と体と知を」
「それを欲しているのは研究所……いや、人間だよ」
「透も人だよ」
「そうかな」
人であったのだろうか?いつまで?いつから……
「貴夜は、変わらなかった。透は変わらず、貴夜が大切。『定め』は出会いから始まる。だけど、決めるのは透だよ」
ずっと、遠くを死神は見つめている。
「……」
未来はいつだって、死神の予測可能域にある。
「で、どうだった?」
嫌味な言葉が廊下で投げかけられた。
「航、何がいいたい?」
ちらりと振り向いた先に、いやな笑いをしている航がいた。
「ここではちょっとな。俺の部屋へ来いよ」
「悪いが、忙しいんだ」
すたすたと歩きかけた僕に航は言う。
「全て、こちらの掌中にあるんだぜ。それでも?」
「……判った。行くよ。行けばいいんだろ」
頭痛がしてきた。
「まあ、座れよ」
そう言って、差し出された椅子には座らなかった。
「用件だけ、簡潔に聞かせてもらいたいね」
ニッコリ笑って僕は答えた。
航はごそごそと本棚をあさっている。
「そう急かすな。ゆっくり話し合おうじゃないか」
と言いながら、茶色い封筒を一つ取り出した。
「ゆっくりね。随分、昔の事まで掘り出してきたんだな」
笑う気になれないくらい不機嫌に、僕は言った。
封筒の中の書類をちらりと見せて航はにやりと笑う。
「まあね。どうしても、欲しいものがあったんでね。と言うか、最初は偶然に知っただけだ。貴夜がお前の……」
「用件は?」
言葉を遮って僕は聞く。
「……簡潔だよ。推薦を蹴って欲しい。そうすれば、全ての資料はお前にやる」
「ああ、上級職への推薦なんてものがあったっけ。でも、僕が蹴っても君に決まるとは限らないよ」
「お前がいなければ、ほぼ確実に俺になる」
自信満々に彼は言い放った。
「僕にとって、得にも損にもならない取引だね」
「そうか。これが研究所の手の中でも、お前にとってはどうでもいいことか?」
!!
握り締めた拳が小さくゆれている。
「ま、考える時間ぐらいやるよ」
ポンッと叩かれた肩が重くなった気がした。
僕は無言のまま、その部屋を出た。
学校では相談室が僕に与えられた場所だった。
生徒や先生、保護者との話し合い、そんな事も僕の仕事のうちだった。
カリカリと鉛筆の音だけが響く部屋にあの子が来た。
「冠崎先生。これ、2-1のノートです」
「ああ、そこに置いて」
ノートを近くにあった机に置くのが目の端に映った。
資料を取ろうと立ち上がった途端、メモをしていたノートが落ちた。
「はい」
貴夜がノートを手渡してくれた。
「ありがとう」
「星座?お好きなんですか?」
机に開かれたノートを見て、貴夜が聞いた。
「別にただ興味があるだけ」
「……好き、じゃないですか。私は興味もあるし好きですよ」
貴夜は軽く椅子に腰掛ける。
「だって、ドームの向こうにはたくさんの星があるんでしょ? 素敵じゃないですか?」
夢見るような顔で彼女は空を見上げている。
「そうかな」
「そうですよ」
ニッコリと微笑む彼女に僕は何も言えなくなってしまった。
僕らの住まうドームの外がどんな世界なのか。
どうして僕らがここにいるのか。
貴夜は何も知らないまま、信じてる―
星が空には輝いているのだと。
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