2024/05/21 「探偵の日」 

「犯人は……」

唐突に指をさされて、思わず「待て」と言ってしまった。

「本当にそれでいいのか? わたしではなかった場合は、誹謗中傷で訴えることも出来る」

探偵はわたしに向けていた指を曲げ、眉を下げた。

「えっと。すみません。もう少し考えます」

薄っぺらい苦笑いと共に部屋の中には安堵の空気が流れる。誰も自分を指さされたくはない。けれど、犯人は見つけたい。できれば『探偵役』の手で。自分の手は汚さずに。

探偵はブツブツと何かを言いながら部屋を出ていった。推理の組み立てをし直しているのだろう。状況証拠はあってもアリバイは崩せなかったり、アリバイがなくても状況証拠がなかったりと、誰もが『犯人でありえる』

小説のように事細かに舞台と小道具がそろっているなんてことはない。現実は穴だらけだ。そのツギハギを縫って『おそらく犯人だろう』人間を捕まえるだけだ。科学技術の進んだ現在でさえ、えん罪はあり得る。

「おいおい。このままじゃ。死体が先に腐って消えちまう。俺たちもいい加減こんな所に足止めはされたくない。帰らせてもらう」

一人がそう言った。それはそうだ。小説のように事件解決まで犯人がその場にいるなんてこともない。警察が証拠を積み上げ、『犯人だろう』と推理した人間を捕まえるだけだ。探偵をしたければ警察官になればいい。

探偵があたふたとし始める。

「待って。待ってください。犯人がわかりました。本当に今回は大丈夫です。なので、最後まで聞いてください」

探偵がもったいぶった言い方で、部屋に戻る様にみんなを促す。わたしたちは『あと少しだけ』という約束で部屋に戻った。そして、探偵が指し示した犯人は。

「私です。申し訳ありませんでした」

そのパターンもすでに推理小説の中にはあると思いながら、皆が探偵の推理の披露を待ったが、一向に始まらずに探偵は口を閉ざした。

「動機は何だ? あんたは常にだれかの傍にいて、鉄壁のアリバイがあるがそれはどう崩したんだ?」
一人がそう問うと探偵は「実は……」と続ける。

「共犯がいるんです」
部屋の中が再びざわめく。

「誰だそれは?」
探偵は首を振って言えないと繰り返したが、やがて諦めたようにつぶやいた。

「あなたです。あなたが望むから、殺人は起きたのです」


それは最強の犯人になりえる……と、その場の誰もが納得してしまった。
あなた読者には、理解できただろうか。

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