2024/09/29 曼殊沙華(まんじゅしゃげ)

赤い花がぽっと浮き上がって見える。辺りはすっかり茶色の枯草の中、そこだけが赤く燃えているので目立つ。

「あれ、何?」
同居人がそれを指さして聞いた。あの場所。この時期ならば、アレしかない。形が見えなくてもわかる。

「彼岸花」
「彼岸? あの世の花?」
同居人が、近づいてみたいと言い出したので草刈りの終わった田んぼに入ることにする。他人の田んぼだが顔見知りだし、入るだけで何か言われることはない。

「花?」
同居人が近づいて花の形を見て、首をかしげる。
「花だよ。曼殊沙華ともいう。墓場に植えてあることが多いし、彼岸の時期に咲くから、いい意味で使われることはないかな。お見舞いに持っていくのは無理だから」
「変わってるね。細いし、葉っぱがない」
「うん。だから、この花の見分けはつきやすい。一度見たら忘れられない」

同居人が花に触れて、手折ろうとしたのを止める。
「飾るのはちょっと……それに、たしか、毒があったような」
同居人の手が慌ててひっこむ。しばらく見つめて、写真を数枚撮ってから同居人は「もういい」とまた田んぼを横切り始めた。

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