2024/06/26 ハメルンの笛吹きの日(諸説あり)

「笛の音が聞こえる」

4つの妹がそんな事を言い出した。
「聞こえないよ」
私はそう言ったけど、妹は遠くを指さして「聞こえるよ」とまた言う。

おばあちゃんがそれを聞いて、「聞いちゃいけないよ。家にお入り」と妹を呼んだ。

祖母の顔は真っ青で、まだ遊びたいという妹の腕を無理やり引っ張って家に入れた。
「お前も、お入り」
私にもそう言ってくる。私は妹が指さした先を眺めたけれど、いつもと変わらない街への道が続いているだけだった。

「聞こえるのかい?」
「聞こえないよ。でも、町の子たちがこっちに来ている」

街から子供たちがこちらに来ている。うちは町から少し外れた丘の上に立っている。私の家を通り過ぎると、数件の家があるだけでその先は森に続いている。

「お入り」
おばあちゃんが私をもう一度呼ぶので、家の中に入った。
「あの子は?」
家に入ったはずの妹がいなくなっている。窓が開いているので外を見ると、窓から外へと出たようだった。

「連れ戻して。家に戻して」
おばあちゃんの必死の様子に私は妹を追いかけて、その腕を引きずって家の中に入れた。おばあちゃんは窓も扉も閉めてから、私と妹を抱きしめた。


「もう、終わって。終わってほしい」

真っ青な顔でおばあちゃんはそう呟いていた。

外では子供たちが楽しそうにはしゃぎながら通り過ぎていく音がする。

「行く。私も、みんなと一緒に行く」
妹は暴れて、外に行きたがった。おばあちゃんは「だめよ。ダメ」と言って妹を押さえている。


やがて、外が静かになった。
妹は「皆行っちゃった」と泣いた。

「行きたかった。行きたかったのに」
泣き叫ぶような声が部屋の中に響いた。それをなだめながら、おばあちゃんはホッとした顔をしている。

帰ってきた父は驚いた顔で、私たちを見ていたけれど、おばあちゃんの話を聞いて「またか」と呟いた。


翌朝、妹はいなくなった。聞こえなかった私は意味が分からなかった。



「おかあさん、笛の音が聞こえる」
娘がそう言い出した時、私はあの時の事を思い出した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?