2024/09/16 「マッチの日」
「マッチはいりませんか?」
籠に入ったマッチは一つも売れていない。手元にあるのはマッチの小箱。足元は裸足で、服は擦り切れている。さらに頬には汚れが……。
マッチ売りの少女か!!と叫びたくなるほど、合致した光景にめまいがする。ここが中世西洋ならばまだしも、現代東洋では合わない。せめてこれが『炭売り』ならばどうにかなっただろうか……とどちらにしても似合わない想像をしてから、彼女の手が通行人をすり抜けたことに気が付く。
幽霊?という不穏な単語が浮かぶが、他にも少女を避けて睨みつけていく人がいるので幽霊ではなさそうだ。
「あのー」
私は思い切って声をかけてみる。少女はパッと顔を輝かせて、「いくついりますか?」と聞いてきた。
「いえ。そうではなくてですね……。靴はどうしたの?」
家はどこなの?と聞こうとして、それはさすがに個人情報に引っかかるだろうかと考えてしまった。
「必要ありません」
「でも、足、ケガしない?」
「しません」
きょとんとした顔で何を言ってるんだとばかりに少女は私を見る。そんな顔で見られると、私の考えが間違ってるのかという気にすらさせられる。
「えっと。じゃぁ。家は? お家の人が心配してたり……」
「こんな昼間から心配するんですか?」
確かに時間は真昼間。私は次の言葉を失くしかけてしまった。
「えーと。じゃぁ。聞くけど、マッチはなぜ売ってるの?」
少女は丸い目を益々丸くして私を見た。どんな意図があるのか上手く読み取れない。
「いりますか?」
少女はにっこり笑ってそれだけ言った。おもわず、受け取らなければいけないような気になって、頷いた。少女は一箱、私にマッチを差し出し、私はそれを受け取った。
「これは、命のマッチなんですよ」
少女がそう言ったかと思うと、ふっと少女の姿が消えた。命のマッチの意味はよくわからなかった。
けれど、私が死にそうな目に合う度、マッチは勝手に一本燃えて家の前に落ちていた。
ある時、恋人が瀕死の事故を起こした時に恋人の生還を祈って擦ると、恋人は戻って来た。周囲は奇跡だと言った。私はこのマッチが『人のため』にも使えることを知った。
そして、30本はあっという間になくなってしまった。
「命に満足しましたか?」
私の死の間際に少女がそう聞きに来た。
私は……
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