サザとキヨ―灰達の舞う時間
【その手に触れた時】
いつもいつも。
お腹は空いてた。
抱きしめてくれる手はいつも硬くごつごつとしていた。
それだけでお腹はいっぱいにならなくても
ココは守ってくれる場所だと思っていた。
「ママ?どうしたの?」
揺すっても揺すっても、起きない体。
「ねえ?パパ?」
ただただ、沈黙のみが返るだけ。
泣く事さえも出来ず、繰り返し繰り返し問う。
「ドウシタノ?」
やがて、言葉さえも尽きた。
解るのは2人が動かない事だけ。
夜が来て朝が来て、どれ位経ったのだろう?
「どうしたの?」
それは、僕の声じゃなく。
ママの声でもパパの声でもなかった。
「どうしたの?」
繰り返される言葉に重たい頭をかろうじて上げる。
黒い瞳が僕を覗き込んでいた気がする。
唇が微かに潤った気がした。
【その手が繋ぐ時】
目が醒めると闇だった。
ボーとした頭がだんだんとはっきりしてくる。
「ココ?」
ゆっくりと体を起こし辺りを見回す。
荒野の中の一本の木の下。
ああ、僕が居たおうちだ。
だけど、ママの姿が見当たらない。
何処へ行ったのだろう?
「気がついた?」
声のした方に漆黒の闇に溶け込む人物が居た。
「驚いた。いきなり、人の腕に噛み付くかと思ったら気を失うから」
闇色の瞳がこちらを見ている。
「パパとママ動かなくなちゃった」
突然思い出したのはパパとママの事。
溢れる涙が止まらない。
「それって、あれの事?」
指差した先に白いものが転がってる。
シロイ……骨?
「……どうして?」
「あなたが喰ったと思う。無意識に」
淡々とした口調。
「どうしてどうしてドウシテ」
『サザ、生き延びなさい。私たちを喰らってでも』
いつか聞いたママの声が響いていた。
【その手を求める時】
微かな物音で目が醒めた。
黒い髪が歩き出そうとしていた。
「何処へ行くの?」
服の裾を必死に引っ張り聞いてみる。
「さあ?」
僕のほうを見ようともしない、そっけない返事。
「あ、僕ね。サザっていうんだ。あなたは?」
精一杯笑顔を作る。
一人にされないように。
「キヨ」
冷たい視線が僕を見下ろした。
「キヨは何処から来たの?」
「さあ?」
まるで跳ねつける様な冷たい言葉。
「あ、あの。僕と一緒に……」
「一緒には、居られないよ」
僕の言葉を遮って叩きつける様な返事だった。
「あなたは私と一緒に居て何を望むの? 私を食料にする?それともあなたを守れというの?」
「……」
答えられなかった。
「私は私を守るだけで精一杯。あなたの食料になる気もない」
「あ……」
手がするりと裾から離れる。
「強くなりなさい」
俯いた僕にキヨはかがんで視線を合わせる。
「あなたの両親の力をあなたは喰って受け継いだのでしょう? この時代を生き抜きたいなら、強くなりなさい」
「強くなったら、一緒に居てくれる?」
「ええ」
すっと立ち上がるとキヨは歩き出した。
「もし、生き抜いて。もう一度逢えたらね」
もう一度逢える日。
それだけを信じて―
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