大地の染まる時間1
【崩壊】
ツミハドウツグナウノダロウ
ネェ。トウカ?ドウオモウ?
何が起こったのか。
唐突の事に理解など出来るはずが無いのに
頭のどこかで判っていた。
『彼が命を絶った事
世界が崩壊した事
そして、生き残ったのは―』
大地が静かに佇んでる。
何処へ行くのか。
何処へ行こうか。
【運命】
どれだけの時が過ぎたのか。
虚ろな瞳、乾いた肌、絡まった髪。
誰もが通り過ぎてゆくだけ。
私など見向きもしない。
なのに何故、この街中にいるのか。
「私と一緒に来ませんか?」
雑踏の中からはっきりと声が聞こえる。
その声に私は目を上げる。
そこには一人の男。
優しげな雰囲気の中、瞳だけがやけに鋭い。
物腰は穏やかで上品な振る舞いだ。
「来ませんか?」
その男はどこか懐かしい人に似ていた。
気がつくと無言で差し出された手に掴まっていた。
連れて行かれた場所は宮殿の奥深く。
幾つかの建物が並ぶ場所を通り抜けてある一室に案内された。
水浴びをし、服を替える。
そして、部屋に戻ってくると誰も居なかった。
私はふらふらと部屋にあったベットに突っ伏して
そのまま眠ってしまった。
心地よい香が鼻をくすぐった。
目が醒めると日が高く上っていた。
女官が一人入ってきて食事を取るように言うと出て行った。
食事が終わった頃、あの時の男がやって来た。
「おいしかったですか?」
「そうね」
小さな声で答えた。
「庭に色とりどりの花が咲いていてキレイですよ。見に行きませんか?」
私はその言葉に促されるままに立ち上がり、庭に出た。
「私はケールト・グレスと言います。闘華」
ピクリと自分の耳を疑った。
「……どうして、私の名前」
「いつも見てましたから」
そう言って私の手をとり、手の甲にキスをした。
パシン
私はそれを払いのけて、元いた部屋へと駆け込んだ。
頭の中で警鐘が鳴っていた。
近づいちゃいけない。今すぐここから離れなきゃ。
あの男は嫌な予感がする。
それなのに私はそこを離れられずにいた。
ゆっくりと頭の中は侵食されて
懐かしいあの人とあの男がだぶって消えた。
ずるずると優しい夢に包まれて―
次の日は町に買い物に行こうと誘われた。
その次の日は馬で遠乗りに。
毎日毎日、彼は私を連れ出す。
頭の中では離れなきゃと思いながら、
気がつけば彼に従っている。
そして、彼に惹かれている自分がいた。
それは遠出をしている時に起こった。
「見晴らしがいい」
風になびく紅い髪を押さえ、私は彼を振り返った。
「そうですね」
彼の視線も遠く雄大にそびえる山々に向かっていた。
空気がツンと澄んでいた。
微笑みながら彼は言う。
「この国はあの山々に守られているんですよ。
過去何度もの他国の侵略から逃れられたのは
あの山達のお陰なんです」
言い終わったその時、ザワリと草木が殺気づいた。
「なっ」
辺りをざっと剣を手にした男達が取り囲んだ。
グレスは私をゆっくりと後ろに押しやる。
「どんな用件か聞かせてもらおうか」
今までに聞いた事がない、彼の冷たい声が響いた。
「なーに簡単な事さ。てめぇの命が欲しいだけ!」
言うが早いか一斉に飛び掛ってくる。
私は彼に押され、離れた所に走り出した。
剣でかわすグレスは大勢を相手に疲れていく。
「くっ」
「グレス!!」
剣が彼を突く前に、私は大きな岩を敵にぶつけていた。
残されたのは潰された死体と驚いた彼の瞳。
使いたくなかった力。
使わないでいた力。
震えていた私にグレスが優しく微笑み、たった一言。
「ありがとう。闘華」
彼が優しく私を抱き寄せる。
私の瞳から涙がこぼれていた。
それが後悔なのか、安らぎなのか私には判らなかった。
その数日後、彼はこの国が隣国に
攻め込まれている事を私に教えてくれた。
あの時襲われたのはそのせいだったらしい。
そして、この力をこの国を守る為に使って欲しいと。
「それは、私に人を殺せというの?」
この力の為に私に近づいたのかと不安が覆った。
「そんな事はさせない。イヤなんだろう?」
そう言って優しく髪を撫でる。
「だったら、何を?」
「敵の足止めや味方の支援とかだよ」
「……判ったわ」
「ありがとう」
甘い香がフワリと部屋に漂っていた。
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