2024/11/11 水粒(みつぼ)

水粒がたたんと跳ねた。

ビニール傘は面白いほど水の行方が見える。それを眺めてると、人にぶつかりそうになってしまった。

驚いた声と共にその人が振り返る。
「大家さん……」
同居人だった。背景に混ざりそうな緑のレインコート。そこにも水粒が沢山伝っている。

「帰り道?」
緑だけどマーブルというのか微妙な色の変化がある。何かの絵には見えない。

「うん」
「レインコート、どこで買ったの?」
「お店。変わったものがいっぱいあった」
「雑貨屋さん?」
「……。そう、それ」
同居人が少し考えたのは『さん』が人の名前の後につくからだろう。それ以外では使わないでと言われていたけれど、こうやってうっかり使ってしまう。
だから、同居人は『さん』を消して考えていたようだ。

水粒の垂れる傘とレインコートで並んで歩く。

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