2024/11/01 「点字の日」

ぽつぽつと指先でその文字をなぞる。もちろん、読めない。私の目は見えている。だから、目を使って母音だけを読む『おあえ』

私の手の中のそれは缶チューハイ。つまり答えは『おさけ』

「うー。わからん」

そう言いながら、缶を開ける。
「何が?」
「点字。久しぶりに読んでみようかなと思ったけど、母音しか思い出せない……それも、怪しいけど」

同居人がノンアルを手にテーブルにつく。今日は大したものはない。ご飯と唐揚げ。あとはサラダとゆで卵ぐらいだ。

「まだ、仕事が残ってる?」
同居人が一口飲むのを待ってからそう聞いてみた。

「少しね。真夜中少し、出てくる」
「そっか。頑張って」
同居人がゆで卵をむきながら、話を元に戻した。

「でも、読めるんだよね。点字。本は読める?」
「え。それはさすがに……って点字の本? そんなの手に入らない貴重品じゃん」
「手に入るけど……母国のだから」
「あ。無理」
同居人の言葉に私は即座に両手を上げた。

「私が知ってるのは日本語仕様の点字。アルファベットはさすがに無理……。アルファベットであってる?」
向こうの方はいくつかの言語があるけど元は一つの言語からの派生らしいのでアルファベットを元に文字が組み立てられている……というのを何かで読んだ気がするけれど、彼の国がそこに入っているかは自信がない。

「えっと。ラテン系っていう意味?」
「たぶんそれ。ラテン語を向こうは習うって聞いたような」
「そうだけど、そっちの言葉は試したんだ。周辺の国の言語もいくつか読み解こうとしてみたけど、さっぱりで……元の持ち主がアジア系という事までは突き止めたけど、日本語かはわからない。表紙も点字で絵がない。おそらく、完全な盲者のための本だと思う」

「タイトルくらいはわからないの?」
「わからない。読み解けなかったから。……あ。写真ならある」

そう言って、彼は手元にあるスマホを弄って、画像を見せてくれた。点の位置がわかり辛いけれど、映っている情報で読み解くしかない。

「送っておいて、調べてみる。今は、食べよう」

表紙の写真は点字……というよりも絵のように見えたのは気のせいだろうか。

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