2024/09/28 月鈴子(げつれいし)

綺麗な『リーン リーン』という音が部屋の中で響き渡る。これが外ならば、微笑ましい音なのだが、どう考えてもこの音の大きさは部屋の中だ。

探したところで、見つかるとは思えないが、とりあえず音が鳴っている近くの壁を叩いてみる。
ピタリと音が止まった。この辺り……という事まではわかる。けれど、わざわざ明るいところに出てきてくれるだろうかと思ってるとピョンと何かが飛び出して来た。

ティッシュをとって周辺の物を片付けて広めの場所を作ってから、真上からがぱりと包み込む。上手くティッシュの真下に入ってくれて、摘まむことができた。そのまま、玄関から外へ出てティッシュを開くと、慌てたように鈴虫が飛び出していく。

両足はついている。傷つけてない。元気だ。

すぐに草の中に身を潜めてしまった。私は家の中に入る。

「お疲れ様」
片づけた物を元の位置に戻しながら、同居人がさらに聞いてきた。
「ただの虫なのに、殺さないのは鳴くから?」
「綺麗な音だし。殺したら寝覚めが悪い」
人間の身勝手と言えばそれまでだけど。

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