詩|夏の呼吸
夏には夏の呼吸があって
それがなんとも心地良くて
エアコンの風がなくてよかったなと思う
この熱のある風が
鼻腔や、瞳や、ほほを撫でて
胸に尖っていたものがあれば、平らにし
肩肘はらぬ力を置いてゆく
それは、とても嬉しい力
すべての一瞬の中に
緑や花の、異なる香りが混ざり合い
そのたび、心に新鮮な命が宿る
そうして、また、快活なまなこが開く
夏の風が、あたりを流れて
木影は揺れながら、心をくすぐる
鳥が頭の上で、なにか話している
虫が間違って、木の幹に当たって落ちる
すべて、別々のものが
1つも歩み寄ろうとするわけでもないのに
ただ、そこにあってとけ合っている
ただ、清浄な空気が流れる
掃除の行き届いた場所には
瑞気が生まれるが
手入れの行き届いた庭には
この大地に根を張った
命と自然の
別れていながら、別れていない
わき出るような
暖かい体と心の
気が流れている
心と呼ぶには、あまりに広く
多くへ行き届き
常に命に対して
前向きに背中を押して
ただ、そこに憩わせるような
人の意図では届かないような
高い計らいに満ちている
ここはそういう自然の息吹を呼べる場所
日差しを呼び
水気を呼び
木の葉が照り返し
影が苔のうえに揺れ
大きな岩は太陽の熱に染まる
そして、そのそれぞれ、どれもが
何一つ声高に主張せず
それでも、どんな人間よりも
暖かく、朗らかに
穏やかな微笑のように
対するものを包むのだ
そういえば、こういう微笑みを
僕は修行のできたお坊さんの上に見たことがある
人生を持って修行したお坊さんの
なんだか、その先生に
あの人が習ったそのもとに
こうして、当たり前に
そして、幸せに
触れられている気がした