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【将棋】囲碁の女性棋士は多いのに、将棋の女性棋士が誕生しない理由
土岐ながれです。よろしくどうぞ。
将棋の女流棋士、西山朋佳女流三冠が、2025年1月22日に「棋士編入試験」五番勝負の最終局に挑みました。
勝てば女性初の「棋士」になれるという大一番でしたが、熱戦の末に敗れてしまいました。
今日は将棋と囲碁の「女性棋士」のちがいについて考えてみたいと思います。
「棋士」と「女流棋士」はちがう
そもそも将棋の「棋士」と「女流棋士」は別物だということは、あまり知られていないようです。
将棋の「棋士」になるのは、「奨励会」という養成機関に入り、「三段リーグ」を突破した人だけです(次点2回でフリークラス入りなどの場合もあり)。
もちろん、女性も三段リーグを抜ければ「棋士」になれます。でも、今まで女性で「三段リーグ」を突破した人はひとりもいないんですね。
では「女流棋士」とはなにか?
女流棋士は「棋士」とは別のカテゴリーで、「白玲戦」「女流名人戦」などの女性限定の棋戦で戦っています。
ただ、女流棋士も「棋士」になる道があって、それが「棋士編入試験」なんですね。
女流棋士のトップは竜王戦やNHK杯などの「棋士」の棋戦に参加することができて、そこでいい成績を残すと棋士になるための試験を受けることができる、というわけです。
これまでも福間(旧姓・里見)香奈がこの試験に挑みましたが、3連敗で不合格。
西山女流三冠も「棋士編入試験」の受験資格を得て、五番勝負に挑んだんですが、惜しくも2勝3敗となって不合格となりました。
なぜ、女性は「棋士」になれないのか?
なぜ、女性棋士が誕生しないのかは多くの人が考察していますが、一番大きいのは「将棋の競技人口の男女比」。つまり、将棋をやってる女の子が少ないということです。
これは羽生善治将棋連盟会長もいっています。
そもそも棋士をめざす女性が少なければ、才能ある人が出てくる確率も低いので、棋士になれる女性が出てくるのはむずかしくなります。
最近でこそ藤井聡太ブームで将棋をはじめる女性は増えていますが、その効果が出るのはだいぶ先のことになるでしょう。
情報の非対称性
女流棋士のトップである西山・福間のふたりが、「棋士」になってもおかしくない実力を持っていることは、おそらく将棋関係者のすべてが同意すると思います。
では、なぜふたりは「棋士編入試験」で負けてしまったのか?
実は「棋士編入試験」は過去、5回行われています。そのうち3回は男性のアマが挑戦しましたが、いずれも合格しています。
そもそもこの試験は「直近で棋士になった5人に勝ち越せば合格」というもの。
試験官となる棋士は勝ってもなにも得るものがなく、どうしてもモチベは低くなります。それに対して、受験者は100%のやる気で挑みます。対局相手の研究も全力でやるはずです。
仮に実力が同じなら、どうしたって受験者のほうが有利なはず。
ただ、西山・福間の場合は実はちょっと条件が違ったのです。
これまで試験に合格したのは男性アマチュアで、棋譜(対局の記録)はほとんど残っていません。試験官としてもなにをやってくるかわからない怖さがあります。
それに対して西山・福間はトップ女流棋士なので棋譜は大量に公開されているんですね。
しかも西山は2020年、福間は2018年まで奨励会にいて、当時三段だった試験官と対局しています。
つまり、西山・福間の将棋は相手に研究されまくっているのです。
その証拠に、西山と最終局で対局した棚木幹太四段は奨励会時代、西山に5勝0敗。
こういう相手とやらなければ棋士になれないというのは、どう考えてもハードルが高かったといえます。
囲碁は「女性枠」がある
では、囲碁界はどうなんでしょうか?
囲碁にも「女流棋士」は数多くいますが、性別が女性というだけで、基本的に「棋士」は男女同じカテゴリーです(女性だけが参加できる女流本因坊戦などの棋戦があるというちがいはありますが)。
ただ、棋士になる条件が男女全く同じというわけではないんですね。
日本棋院の棋士採用試験では、「女流特別採用棋士」という枠があって女性が1名採用されます。
そのほかにも、「女流特別採用推薦棋士」や「英才特別採用推薦棋士」などの制度があって、現在は女性を積極的に採用しています。
(※追記:女性棋士全員が特別採用というわけではなく、謝依旻(しぇい・いみん)など、男女混合の一般採用試験を突破してプロ入りした女性棋士もいます)
では女性の棋士のレベルが低いのかというと決してそんなことはなく、たとえば「女流特別採用」でプロ入りした上野愛咲美は新人王戦優勝、世界タイトル獲得などと大活躍しています。
レーティング(国内)も女性のトップは30位ぐらいですが、名人などのタイトルに手が届くのもそう遠い未来ではないでしょう。
将棋と囲碁のちがい
つまり、将棋界は女性に対して男性と同じハードルを課していますが、囲碁界は女性を積極的に採用しています。
そして結果を見れば、囲碁のほうが女性の実力が伸びているのです。このちがいをどう考えるか。
将棋連盟のやり方は男女公平に見えますが、そもそもスタートラインがちがうものをいっせいに競争させるのは無理な話。
女性棋士が誕生しないのであれば、そのために将棋界としてどういう取り組みをすればいいのか考える必要があるのではないのでしょうか。
ただ、囲碁は100年以上前から女性棋士がいるのに対して、将棋は女流棋士制度ができて50年。女流棋士のトップが奨励会と重複して棋士を目指すようになってまだ15年でしかありません。
囲碁と将棋では女性が活躍してきた歴史が全然ちがうのです。すぐに結果を出せというのも酷な話ではあります。
西山・福間のチャレンジは残念な結果に終わりましたが、これから新しい扉を開く女性が必ず現れると思います。
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