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別れ

本格的に寒くなる直前のある日、飼っているハムスターが亡くなった。私の30歳の誕生日にお迎えした子で、20年越しのハムスターを飼う夢を叶えてくれた子だった。


夫婦揃って昼寝をしてしまい、やっとお風呂が終わったのが深夜2時。いつものように就寝前、ハムスターのエサやりに行った。寝てるのかと思ったら、ゲージを持って揺れてもビクともしない。ものすごく嫌な予感がした。

眠るように、亡くなっていた。少しの物音でも敏感に反応し、エサの催促でゲージの扉をガリガリ齧り、触ろうとるすとすぐ噛んじゃうような子が、全く動かない。身体が硬くなっていた。目も開かない。簡単に触れてしまった。いくらでも撫でさせてくれた。いつもなら嬉しいはずなのに、喜べるわけがなかった。

2週間ほど前 初めて動物病院にかかり、消毒と薬を続けていた。ハゲていた部分にやっと毛が生えてきて喜んでいた。次回の診察には2、3日後行く予定だった。

症状からして寿命だった。夫がたくさん調べてくれた。1年10ヵ月の命だった。1年8ヵ月、一緒に過ごす生活に突如として終止符が打たれた。

寂しさ以上に、後悔と罪悪感でたまらなかった。もっと掃除をマメにしてれば良かった?エサを市販品だけじゃなくて新鮮な野菜や季節の野草をもっとあげるべきだった?もっと早く病院に行けばよかった?引っ越しの移動が相当ストレスだった?

どれも当てはまるかもしれないが、寿命だとしたら当てはまらないのかもしれない。

しかし私にとっては初めてのペットであり、初めての別れだった。こんなに涙が途切れないものなのかと思うほど泣いた。頭が割れそうなほど痛かった。


翌朝、ペットの葬儀業者に朝一で連絡するも、当日の火葬は間に合わなくて翌日となった。日中も ふとした拍子にすぐ泣きそうになったが、寝る前はもう耐えられなくてずっと泣いた。夕方、やっとお供えの花を買いに外へ出た。買い物を終え、帰るのかと思ったら夫が「ドライブする?」と、言ってくれた。また家に戻ると辛くなりそうだったので、有難い提案だった。


翌日。大好きだったおやつを用意してたらまた泣いた。仕事を早上がりしてくれた夫と、火葬場に向かう。

スタッフの人はびっくりするほど丁寧だった。人間の葬儀と同じように振舞ってくれた。

棺には、自分たちで入れるシステムだった。夫にしてもらった。やっぱり姿を目の前にしたら、泣いてしまった。まだスタッフさんいるのに。

会計を終え、準備をする為スタッフさんは出て行った。しばらくして火葬場の前に呼ばれ、お別れの儀式。花を飾り、周りに大好きだったエサとおやつを入れた。綺麗なお花に囲まれた姿を見て、本当にしんじゃったんだと思った。

焼香を終え、棺の扉が閉まる。火葬の直前に、棺の窓を開いて顔を覗いた。本当に本当に最後なんだと思った。

また待合室に戻り、1時間ほど待機した。火葬が終わりまた呼ばれた。すっかり変わった姿になってしまっていたが、そんなにショックを受けずにすんだのはスタッフさんが懇切丁寧に骨の説明をしてくれたからだろう。骨壺に入れる時の扱いも至極丁寧だった。慈しみに満ちていた。

ただでさえ小さかったのに、骨壺に入ってますます小さくなってしまった。親指と人差し指で作る丸くらいの大きさの骨壺に全部入ってしまった。

次は49日の合同供養だ。それまでは、まだ一緒にいられる。1月半ばに行われる予定だが、私は耐えられるだろうか。きっとまた わんわん泣くんだろうな。

この子に対して数々の後悔が頭を巡る中、「今度は、絶対に…」と思った。「今度」?また、飼うの?こんなに後悔してるのに?後悔しているからこそ、次はそうならないように?それは自己満足すぎないか?この子に対して不誠実ではないだろうか。罪滅ぼしではないのか、寂しさを紛らわす為じゃないのか。せっかくゲージがあるしなんて言い訳をしていないか。

ごめんね、と繰り返す私に夫は「この子も、泣いて謝ってばかりより、ありがとうって言ってくれる方が嬉しいと思うよ。こんなに大事にしてくれたんだから、幸せだったと思うよ。出来ることはしたよ。もし次の子を迎える時はもっと大事にしてあげればいいじゃない。」

そうだろうか。エゴではないだろうか。うちに来て良かったと思っていてくれたなら、これ以上幸せなことはない。

私はどんなに傷付いても、辛い別れがあっても、3週間後にはケロッとしてるような人間だ。

きっとまた、数ヵ月後には新しい子をお迎えしたいと思うんだろう。もしそうなったら、別れる時は絶対に寿命であらねばと思うし、後悔ではなく寂しい気持ちで涙を流したい。

10歳頃からずっと、飼うのが夢だったハムスター。20年の時を経てようやく叶った夢。初めてお迎えした子。うちに来てくれて本当にありがとう。可愛い姿を見せてくれて、癒してくれてありがとう。不慣れで力不足な飼い主で本当にごめんね…。

どうか、天国では楽しく自由に過ごして欲しい。



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