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-遁世者-


街はすさんでいた。

男は
パンが配給される列に並び、
2つのパンが支給された。

「ふぅー、、」
とため息をつき
自家へ戻ろうとした次の瞬間、
道を通りかかった
とある少年に腕を強く掴まれ、
抱えていたパンを2つとも
持っていかれてしまった。


「・・・
おい!」

男はそう言って
パンを取り返そうとしたが、
逃げる少年を追いかけるだけの
余力が彼には残っていなかった。

しばらく茫然としていた。
頭上に目をやると、
空はうす曇りの状態である。


「そこのあなた」

男が視線をもとに戻すと、
老年の女性が杖をついて佇んでいる。

「このパンを分けてあげるわ」

老女はそう言うと、
男にパンを2つ手渡した。

「いや、でも、、」

「私はいいんだよ。そんなに食欲もないし」

よく見ると、確かに痩身である。
しかし、身なりは年の割に小奇麗である。


「どちらにお住まいなのですか」

男がそう尋ねると、
老女は
いくぶん顔をしかめたが、

「あっちの川向こうの教会に
隠居している者だよ」

とだけ答えて、
身を翻し
いま来た道を戻っていった。

「もし金銭に余りができたら、
近いうちに持っていきます」

男はそう言ったが、
老女が振り向くことはなかった。


すると、
2,3日のうちに
男には臨時の収入が生じた。

「あの女性のところに
お礼を言いに行こう」

そう思って、
男は川向こうの教会へ足を運んだ。


立派な教会であった。

「こちらに隠居している
年配の女性はいらっしゃいませんか」

と男が尋ねると、

若い掃除婦は
やや顔をしかめて、

「ああ、、
XXさんのことね。
彼女は2,3週間前に
とある疑いで国に捕まって、
いま行方知らずなのよ」

と答えた。

それを聞いた
男は
「えっ・・」
と声を漏らしたが、

すぐさま
「そうですか」
と言って帰ろうとした。


が、
また翻して、

「こちらのお金を
XXさんに渡していただけませんか」

と男が言うと、

若い掃除婦は
少しおどろいて、

「・・・
どういうお金なのかしら。
もう彼女は戻らないと思うけど。
そうしたらお布施にしちゃってもいいのかしら」

と返した。

「構いません。失礼します」

男はそう言って、
教会をあとにした。


扉を開けて外に出ると、
空は澄んで晴れている。

早朝は冷えていたが、
いまや気温も上がっている。


男は、
着ていた
ツイードのコートを脱いで
左手に抱え、
やつれた街中に
足早に消えていった。






以上

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