-蜂と蝶-
若造は
あまり気乗りしない面持ちで
パピヨンの街へと向かっていた。
「機械のカラダを
手に入れるなんていうのは、
聞いたことがないぜ」
この頃、若造には
「銀河鉄道999」のストーリーが
頭に浮かんでいた。
不死の身体を手に入れるために、
ある少年が謎の美女と
銀河を旅する物語である。
そうして、
パピヨンの街に着いた。
しかし、
一見したところ
とりわけ人々に
変わった様子は見られない。
「なんだ、こんなもんか」
そう思っていた矢先に、
とある少年が
若造に声をかけてきた。
「お兄さん、この街の人じゃないね」
7つか8つくらいに見えるが、
年齢のわりに
ひどく落ち着いているように感じられる。
若造は少し驚いたが、
このように尋ねた。
「君はこの街の人なのかな。
この街はどんなところなのかな」
そう訊くと、
少年は淡々と
次のように説明してくれた。
この街の大人の多くは
すでに不死の身体、
機械のカラダを手に入れている
ということ。
街の住人は20歳になった時に、
機械のカラダを手にするか、
寿命が1年程しかない ”蝶” の形に変化するか、
どちらかを選択しなければならない
ということ。
そのことを耳にした若造は、
やや呆気にとられてしまったが、
次のように
少年に尋ねてみることにした。
「君は、どちらの選択をするの?」
少年はこう答えた。
「うーん、、
お父さんとお母さんは、
機械のカラダを手に入れろ
って言うんだ。
いまのところは、
なんとも言えないかな」
その落ち着き払った発言を
耳にした若造は、
ちょっとした目まいを覚えたが、
そうした少年の態度に
感服もしていた。
その後
街全体を軽く一望してから、
最後に少年に
挨拶をした。
「じゃあね。元気でね」
若造はパピヨンの街を
あとにしたが、
いたって他の街と変わらぬ
その場所に、
なんとも表現しがたい
不気味さも感じていた。
若造は
視察報告のために
自らの都市国家に戻る。
「さて、どうであったかな」
国王は、
若造に対し
感想を求めた。
「特に変わったところのない街でした。
しかし、そのうちに
わが国が脅かされるような
危険性を有する
国家へと変貌する可能性もあります」
若造が
このように答えると、
国王は
「ふむ。まあいいだろう」
とだけ返した。
国王への報告が終わった後、
若造は
自分の国の平和な状態に
感謝をした。
しかし、
他国からも
”悠久” だとか
うたわれている
この国の平和な状況も
いつまでもつのだろうか、
そういう感覚も拭えずにある。
ふと近くで、
濃い色の蝶が
草木にとまるのが見えた。
美しいその
グラデーションの中に、
若造は
パピヨンの街の少年の姿を
重ねてみた。
そのすぐ近くに、
せっせと働く
蜂の姿も目に入る。
「自分は、蜂だろうか、
それとも蝶だろうか」
そんなことが
頭の中に浮かんだが、
結局のところ
どちらでもよかった。
夏がもうすぐ終わる。
秋の足音がすぐ
近くまで来ているのを、
若造は
肌で感じていた。
以上
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